日本結晶学会について

会長挨拶 「構造科学の結節点を目指して」

 このたび、杉山和正前会長の後を引き継ぎ、2026~2027年度に会長を務めることになりました尾関智二と申します。どうぞよろしくお願いいたします。

 私は「ポリオキソメタレート」と呼ばれる一連の化合物を研究対象としています。これらは高校の教科書には登場せず、大学レベルの無機化学の教科書でも、大部のものにわずかな記載がある程度です。そのため、研究紹介の場ではまず化合物の基礎的な説明から始めなければなりません。手間はかかりますが、その都度定義を明確にすることによって、先入観のない状態から共通の理解を得た上で話を始められることは利点でもあると考えています。

 一方で「結晶」は、中学や高校の教科書にも登場するほど広く知られた概念です。大学の講義において結晶の対称性やX線回折の原理について学んだ方は多いでしょう。しかし、広く知られているがゆえに、結晶学は対称性や回折理論を扱う学問であるという理解にとどまりやすい側面もあります。

 もちろん、対称性や回折理論は結晶学の重要な基盤です。しかし、結晶学はそれらの理論の深化だけを目指してきたわけではありません。対称性や回折理論に基づく結晶学は、原子・分子レベルで構造を明らかにするための方法論を確立し、構造を基盤として物質や生命現象を理解する構造科学の発展を支えてきました。その考え方や手法は高い汎用性を備えており、物理学、化学、生物学、地球科学、材料科学など多岐にわたる研究分野で活用されています。こうした広がりを受けて、日本結晶学会には多彩な背景を持つ研究者が集い、幅広い研究対象や研究手法について活発な議論を交わしています。

 このような多様性こそが、日本結晶学会の大きな強みです。しかし、多様な研究者が集うだけでは、その価値は十分に発揮されません。構造に関心をもつ研究者が、それぞれの専門分野や研究手法を持ち寄り、互いの視点から議論を交わすことによって、新たな発想や研究の展開が生まれます。分野が異なれば、「当たり前」も異なります。ある分野において当然とされている考え方や手法が他分野においては新鮮な視点となり、他分野の考え方が自身の研究に新たな気づきをもたらすことも少なくありません。

 私自身の経験を振り返っても、年会で得た蛋白質結晶の取り扱いに関する知見は、ポリオキソメタレート結晶を扱う上で日常的に役立っています。また、放射光ビームラインに関する詳細な情報からは、新たな実験の着想を得ることもできました。さらに、物理学や生命科学など、自身の専門分野である無機化学のコミュニティだけでは出会うことができない分野の研究者とのつながりは、研究者としての視野を広げてくれました。

 日本結晶学会は、結晶学を専門とする研究者だけが集まる場ではありません。構造を通して物質・材料や生命・自然現象を理解しようとする研究者に広く開かれています。そこで得られる結晶学的な視点は、研究対象を新たに見つめ直し、これまで気づかなかった構造の意味を理解するきっかけになります。本学会は、このような分野を越えた交流と新たな発見を生み出し、多様な分野を結ぶ構造科学のハブとしての役割を担っています。

 このような交流や議論を支える場として、年会や講習会などの学会行事、そして学会誌があります。学会誌は、分野を越えた研究成果や考え方を共有し、自分の専門分野では得られない知見に触れる機会を提供しています。

 日本結晶学会が持つこのような魅力と価値を広く知っていただくために、会長としてどのような取り組みができるのかを会員の皆様とともに考え、実践していく所存です。こうした歩みがが、本学会を通じた新たなつながりを育み、若手を含む会員一人ひとりの研究の進展につながることを願っています。こうした積み重ねにより、日本結晶学会が構造科学の結節点としてさらに発展していくことを目指したいと考えています。

 会員の皆様におかれましても、本学会の活動に積極的に参加し、多様な研究者との交流や議論を通して、新たな着想や研究のさらなる広がりにつなげていただければ幸いです。


2026-2027年度 会長
日本大学文理学部 特任教授
尾関智二
2026年7月