日本結晶学会について

会長挨拶 「学術のクロスロード結晶学」

 日本結晶学会は1950年に発足しましたので,2025年で75周年を迎えます.私の結晶年齢は,結晶学会年齢より15歳ちょっと若いのですが,2024および2025年度会長を務めさせていただくこの機会に,私自身と結晶とのかかわりを振り返りながら,日本の結晶学の発展のために何かメッセージを出すことができないか考えてみました.

 結晶との出会いは小学校の低学年のころと思います.私は鉱物学を学びましたので,“フィールドワークで鉱物と出会い...”といえば聞こえはよいのですが,ベルヌーイ法で作製した材料素材,人工ルビーが事始めです.親指くらいの大きさでしたが,“これは,とてつもなくすごいものなんではないか!”と感動した記憶があります.高校では地学クラブの鉱物・岩石採集が行事でしたので,鉱物にはそこそこの興味がありました.しかし,鉱物を“結晶”として認識していたおぼえはありません.物理の教科書で,ブラッグの反射条件の説明に結晶という言葉が明確に記載されていることも当時は理解していませんでした.したがって,大学で鉱物学教室に進学したり,現在材料開発の研究所に勤務していることは想定内ですが,日本結晶学会に入会し会員として活動させていただいていることはすこし想定外です.大学院生時代の年会参加の記憶はありません.1984年に入会していますので何らかの活動はしていたと思いますが,おおかた当時研究テーマであった高圧鉱物の構造解析が結晶学会の興味対象外であると考えエントリーしなかったか,日本結晶学会誌の迫力に圧倒され購読会員を選択したのでしょう.しかし,1990年若手の会仙台(年会実行委員長 田中通義先生)は,強烈な体験でした.私の行動タグの1つですが,結晶をキーワードにもつ多くの仲間と出会い,結晶学に対する高い敷居が結晶学を体験してみたいもっと理解したいという目標に変化したのもこの会であったのではないかと思います.

 日本結晶学会はどういう研究者の集まりですかという問いに対して,会員の公約数を表現する“結晶構造を解明する方法論に興味をもつ人の集まり”という答えがあります.今私は,この問いに対して,若手の会で出会うことができた仲間を思い出しながら,“結晶のもつ可能性を信じる人の集まり”と,定石ではない別解をあたえてもよいのではないかと考えています.無限に広がる学術空間にキーワード“結晶”を付記して挑戦するという,柔軟な理解です.

 われわれが目指す持続可能な社会の構築には,すべての学術のクロスロードにある結晶の可能性を信じる日本結晶学会会員の協創が不可欠です.そして,日本結晶学会を会員がもつアイデンティティを統合する協創研究の創出空間として充実させることが,結晶学のさらなる発展につながるのではないかと信じています.

 長い歴史の上に立ち,新しい展開を常に模索する日本結晶学会で,会員の新研究分野の創出と挑戦,そして協創研究をサポートすべく,微力ですが会長の責務をはたしていきたいと考えております.日本結晶学会を発展させるための,会員の方からのアドバイス,そして絶え間ないご支援をよろしくお願い申し上げます.


2024-2025年度 会長
東北大学金属材料研究所 教授
杉山和正
2024年6月