日本結晶学会誌 Vol.66 1号(表紙)

結晶の中の一筆書き構造 氷は残余エントロピーを示す.氷の中では,水分子は隣接する4分子とそれぞれ水素結合を形成するが,その時どちらに2つの水素を向けるかに自由度がある. 実際,氷の回折像からは,4方向にそれぞれ1/2の確率で水素が存在するように見えるそうだ.それぞれの水分子がランダムに配向していれば, エントロピーが生じるのはもっともなことだが,水素結合ネットワークのトポロジーを考えると,実はただのランダムではなさそうだ, というのが本稿の論旨である.ところで,この線路に注目してほしい.図の上下,左右はそれぞれ周期境界条件でつながっていて, 一筆書きになった線路の上を汽車はぐるぐる走りつづけている.汽車がもとの場所に戻るまでに,青い境界線をまたいで外に出る回数と中に戻る回数が等しいことはすぐわかるだろう. え? それと氷に何の関係があるの?タネあかしは本稿をお読みいただきたい.(本稿図4を基に,Afterburn社の許諾を得て作画しました.)

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日本結晶学会誌 Vol.66 No.1 P.1
特集「結晶学とグラフ」
特集「結晶学とグラフ」にあたって
小松一生,久保田佳基,中塚晃彦
グラフ理論からみる結晶格子
小谷元子
ホウ酸塩鉱物の結晶構造のグラフによる記述・分類
興野 純
トポグラフを用いた指数付け(ab-initio indexing)の手法とその背景にある数理のアイデア
富安(大石)亮子
グラフ理論で解き明かす分子性強等方性構造の電子物性
水津理恵
氷の高次構造と均衡原理
松本正和,二井矢圭佑,田中秀樹