金属錯体ナノチューブの疎水性チャネルにおける水分子の特異な挙動 近年,ナノ空間に閉じ込められた水が,バルク状態の水とは異なる挙動を示すことが知られている.なかでも,疎水性のナノチャネルにおける水分子は, バルクでは見られないクラスター構造の形成や,迅速な水やプロトンの輸送,および特異な固液転移などが報告されており,注目を集めている. 代表的なシステムとして,水で満たされたカーボンナノチューブ(CNT)が理論計算を中心に盛んに研究され,上記のような数多くの興味深い知見がもたらされてきた. これらの特性は,ナノチャネル内での可能な水素結合の数がバルクの水よりも少ないことや,水分子と疎水性のチャネル壁面との相互作用が弱いことに起因している. しかし,CNTは結晶性が低く,また骨格における電子伝導度も高いため,細孔中の水分子の構造やのプロトン伝導度を実験的に直接観測することが困難であった. われわれは,金属錯体を基盤に,疎水性のナノ細孔をもったチューブ構造を形成し,水分子を取り込ませることで, 細孔中の水クラスター構造を単結晶X線構造解析を用いて直接観測することに成功した.さらに, 金属錯体ナノチューブの細孔中の水分子による高プロトン伝導性や特異な固液転移挙動の実験的な観測を実現した.