少数の回折データを用いたベイズ推定で区別できた異なる溶媒分子を含んだ同形結晶構造 図で示した構造は,[12]シクロパラフェニレンという環状化合物の内部空間にシクロヘキサンまたはクロロホルムが包接された結晶構造の一部である. これらの結晶構造は同形であるため,解析者である筆者には単結晶構造解析を完了させるまで2つの結晶がそれぞれ異なる分子を内部空間に包接していることは (単結晶を作成する時点で異なる分子が包接されることを狙って調整してはいるが)確認できなかった.しかし, これらの2つの結晶から数分程度で予備計測した少数の回折データを与えたコンピュータプログラムは,異なる分子が包接されていることを直ちに判定することができた. この判定を可能にした背景にあるのが,近年のデータサイエンスの発展にかかわる技術の1つである「ベイズ推定」である. 数分の予備計測から単結晶構造解析の結果を予想可能にして,内部空間に分子を包接可能な細孔性化合物の結晶構造解析のスループットを向上させることを, 結晶学におけるDigital Transformation(DX)の一例として提示したい.
図2
(a)自己符号化器の構成.2θを横軸にして離散化したXRDの強度データ(11,900次元)を入力にして,信号線次元を最終的に低次元
(例えば二次元)に絞り込んで特徴量空間に落とし込む.これを再度対称な形で入力次元と同じ出力に戻すネットワーク構成を用いる.
(b)XRDパターン画像を学習した自己符号化器は,特徴量空間上で元素置換比率に応じて投影領域を分かつ.(文献9参照)
図3
(a)クラスタリング解析の結果分類されたXRDパターンの例.
(b)決定木学習の結果.分岐点は合成条件を意味する.