日本結晶学会誌 Vol.64 4号(表紙)
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クライオ電子顕微鏡で可視化された超高度好熱菌由来グルタミン酸脱水素酵素の溶液中ドメイン運動における準安定状態 クライオ電子顕微鏡(cryo-EM)では急速凍結した生体高分子溶液を80 K程度の低温化で観察する. 急速凍結によって生体高分子は非晶質氷に包埋されるので,溶液中での構造を保った観察が可能となる. さらに,観察される各分子の構造は氷包埋固定によって構造揺らぎ中の準安定構造へトラップされるため, 構造多形を仮定しながら多数の観察像を解析することで,溶液中での生体高分子動態について情報を得ることができる. 左図はcryo-EMによって得られた超高度好熱菌由来グルタミン酸脱水素酵素(GDH)の静電ポテンシャルマップである. GDHはホモ六量体タンパク質であり,各サブユニットは分子中心で六量体を形成するcoreドメインと補酵素ヌクレオチドを結合するNADドメインで構成されている. 六量体に内在するサブユニットの対象性を仮定して得たマップでは,GDHの構造揺らぎを反映して,NADドメイン像の詳細に乏しいものであった. さらにNADドメイン部分に着目して三次元構造分類を行ったところ,右図のようにドメイン間に形成される活性クレフトの開閉度合いが異なる4つの準安定構造が得られた. GDHのクレフト開閉運動は結晶構造からも示唆されていたが,cryo-EMによる溶液中構造の可視化から, 結晶環境下では観察できなかったNADドメインの剪断運動で生じる準安定構造の存在が明らかとなった(John Wiley and Sonsより改変後の転載許諾済).

日本結晶学会誌 Vol.64 No.4 P.279
ミニ特集 「生理学的環境での生体高分子の挙動の観察可能性の追求」
溶液NMR法によるGPCRの活性と直結する動的構造平衡の解明
上田 卓見, 幸福 裕, 竹内 恒, 今井 駿輔, 白石 勇太郎, 嶋田 一夫
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図 2 β2ARの薬効度を規定する動的構造平衡. A)β2ARのM82の位置.(B)逆作動薬,遮断薬,弱い部分作動薬,部分作動薬,完全作動薬が結合した状態のM82のNMRシグナルの重ね合わせ. (C)β2ARの不活性型と活性型の構造平衡および各種リガンド存在下における各状態の存在割合の模式図. (D)β2ARのNMRシグナルから導出したcAMP変化量と,細胞におけるcAMP変化量の実験値のプロット.
日本結晶学会誌 Vol.64 No.4 P.285
ミニ特集 「生理学的環境での生体高分子の挙動の観察可能性の追求」
Humid Air and Glue-coating method(HAG法)を用いた生理学的環境での銅含有アミン酸化酵素の構造解析
馬場 清喜, 村川 武志
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図 3 AGAO の構造と触媒メカニズム. (A)AGAOの構造.拡大図は活性中心.off-Cu(TPQamr)とon-Cu(TPQsq)を,それぞれマゼンタと緑で色づけした. (B)推定される触媒機構.TPQox:酸化型,TPQamr:アミノレゾルシノール, TPQsq:セミキノンラジカル.

日本結晶学会誌 Vol.64 No.4 P.290
ミニ特集 「生理学的環境での生体高分子の挙動の観察可能性の追求」
X線自由電子レーザーを用いた高速分子動画解析法の開発と展望
南後 恵理子, 藤原 孝彰, Luo FANGJIA, 岩田 想
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図 2 二液混合SFXで捉えた酵素の活性部位の様子.酵素微結晶と基質などを混合し,基質,補酵素,イオンが結合していることを観察した. A:混合前,B:混合から6分後.

日本結晶学会誌 Vol.64 No.4 P.294
ミニ特集 「生理学的環境での生体高分子の挙動の観察可能性の追求」
放射光を用いた室温シリアル結晶構造解析
長谷川 和也, 熊坂 崇
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図 2 SSROX法による回折データ測定.