アルミニウム-銅合金の侵入型水素化物形成における結晶構造の変化 アルミニウム単体やその合金は水素との親和性が低く,いわゆる水素吸蔵合金として知られる侵入型水素化物は形成しないと考えられていた. 筆者らは1万気圧以上の高圧下では水素の化学ポテンシャルが急増し,常圧近傍では水素化物を形成しない金属や合金も水素化が可能となる 場合があることに着目し,結晶構造中に水素が侵入可能な空隙を有しているAl2Cu合金の高温高圧下での水素化を試みた. この結果,10万気圧で新規水素化物Al2CuHが合成可能であること,および,得られた水素化物は水素が格子間の隙間に侵入した侵入型 水素化物であることが明らかとなった.図は水素化前後の結晶構造の模式図である.水素は緑色で示した菱形の中心位置に存在する. Al2Cu合金は8個のアルミニウム原子が形成する反四角柱が構造ユニットとなっているが,水素化により反四角柱中の上面のアルミニウムと 底面のそれらが逆方向に変位し(左図の矢印の原子変位),反四角柱のねじれを解消する様な原子変位が生じ,それによって水素侵入サイトが 押し広げられて水素が入りやすくなっていることがわかった.以上の様に,図で示した特異な原子変位が,報告例のないアルミニウム合金の 侵入型水素化物形成において重要な役割を果たしていることが明らかになった.