X線・中性子線回折データの協奏的解析に基づく合成高分子結晶構造解析の新たなる飛躍 ナノオーダースケールの微結晶が非晶の海の中に存在する合成高分子の場合,X線回折データは貧弱で,導かれる結晶構造の信頼性は,単結晶構造解析結果に比べ格段に低い. 異なる視点からの支援が必要となる.中でもX線と中性子の回折データを組み合わせることで信頼度の高い構造の見出されることが多い. X線と中性子の有機的結合はそれに止まらない.X線は電子雲によって散乱され,結晶全体の電子密度分布を与える. 中性子回折データからは原子核位置情報が得られる.原子核周りに予想される電子密度分布を,X線で求めた電子密度分布から差し引くことで, 共有結合によって引き起こされる電子密度分布の変形の様子を知ることができる(X-N法). 合成高分子の巨大単結晶(ポリジアセチレン)について初めて適用された結果が,この図である. 主鎖骨格の三重結合や二重結合の中央付近に共有結合で生じた電子密度ピークが明瞭に認められる.密度汎関数法による計算結果との間にも良好な一致が見られた. 合成高分子の結晶構造と物性との相関を電子レベルから議論することは長年の夢であり,その意味で,この図は象徴的である.