高秩序で柔軟な応答系としての集積発光性白金(II)錯体 ソフトクリスタルは,結晶としての高い秩序構造を保ちつつも,弱い刺激により室温付近で容易に構造変化が起こり, 色や発光などの目に見える物性変化を示す物質群を指す.自己集積して特異な発色や発光を示す平面四配位型の白金(II)錯体は, 弱い刺激で集積構造が容易に変化して,それが電子状態に鋭敏に反映されるため,ソフトクリスタルの典型例として挙げられる. 例えば,ダブルデッカー型の白金(II)複核錯体結晶は,アセトニトリル蒸気に感応して赤色発光から蒸気分子を包接した暗赤色結晶に転移する. このような蒸気応答現象はベイポクロミズムと呼ばれ,蒸気分子が結晶へ出入りすることにより誘起される可逆的な結晶構造変換に基づく. すなわち,蒸気分子を含まない結晶では,複核二量体がπ-πスタックして複核錯体間の白金間が離れた配置をとるが,蒸気分子を包接することにより, 白金間が近接した配置へスイッチして白金間相互作用が拡張する.その結果,色の起源となる金属-金属→配位子電荷移動(MMLCT)遷移エネルギーが変化するのである.