日本結晶学会誌 Vol.62 4号(表紙)

50pm分解能電子顕微鏡で捉えたリチウムイオン 物質中の水素,リチウム,炭素,酸素など軽元素イオンの配置を知りたい観たいという願いが昔からある. いまでは「50pm分解能電子顕微鏡」によってリチウムイオンの観察までができるようになった.収差補正技術の進歩によって, 大きな散乱角(2θ~d/λ)まで電子波の位相が揃えられるようになったからである.さらに“その場観察”電子顕微鏡法を用いれば, リチウムイオン電池の充電・放電サイクルにおいて電極内を移動するリチウムイオンの動的挙動をも捉えられるだろう. スピネル構造をもつ結晶LiX2O4(X=Mn,V)で はリチウムイオンは4面体配位の中心にあって, <110>方向に並んでいる.顕微鏡像(写真は環状暗視野STEM像)は投影像で,像強度は<110>方向に並んだイオン数に比例する. リチウムイオンが移動すれば,コントラストが1つぶん減少する.すなわち,像コントラストが原子ポテンシャルV(r)に比例する位相コントラスト像になっている. 今後,プロトン観察や磁気モーメント観察では,局所回折強度の解析(逆問題の解法)が鍵となろう.

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日本結晶学会誌 Vol.62 No.4 P.217
結晶学とベイズ理論:強度補正や構造パラメーター推定から回折データの統計モデリングまで 星野 学
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図1 回折データの計測を表現した統計モデル. (A statistical model representing measurement of diffraction data.)
日本結晶学会誌 Vol.62 No.4 P.219
Mg2Rh3Pの発見とMg欠損による超伝導発現 伊豫 彰
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図2(a) Mg2Rh3Pの結晶構造.(b) Al2Mo3C型の超伝導物質. ((a) Crystal structure of Mg2Rh3P. (b) Al2Mo3C type superconductors.)
日本結晶学会誌 Vol.62 No.4 P.221
異常高価数のCrをもつCrSe2の特異な逐次構造相転移 小林慎太郎,片山尚幸,澤 博
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図2(a) CrSe2,(b) S置換試料の放射光X線回折パターン.(c) 50Kにおけるフーリエ変換後のCr K端のEXAFSスペクトル. (Synchrotron X-ray diffraction patterns of (a) CrSe2 and (b) its S-substituted samples.(c) Cr K-edge Fourier trans-formed EXAFS spectra.)
日本結晶学会誌 Vol.62 No.4 P.223
Cdc48とその補因子Npl4によるユビキチン鎖認識の構造基盤 佐藤裕介
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図2 Npl4によるK48鎖認識.(K48 chain recognition by Npl4.) (a) Npl4-K48鎖複合体の立体構造.(b) Cdc48-UN複合体の立体構造