ヒドリドを含む酸化物,すなわち酸水素化物は,複合アニオン化合物の中でも特に合成がむずかしい.図に示したような,
CaH2を用いたヒドリド/酸素交換反応は,遷移金属を含む酸水素化物の合成に強力な手法である.
その初めての例は,2002年にRosseinskyらによって報告された(a)のCo系である.生成物LaSrCoO3H0.7では,
Coが+1.7という異常低原子価が安定化されており,この背景にはH-1s軌道とCo-3d軌道間の強いσ結合がある.
一方,筆者らが発見した(b)の生成物BaTiO3-xHxでは,Tiの価数は酸化物中での値と同等であり,
H-Ti間に軌道混成(安定化)は存在しない.これらの違いをふまえてTi系のアニオン交換の詳細を検討したところ,
これまで無機固体合成ではほとんど顕在化することのなかった速度因子の影響が見えてきた.
Werner型錯体の構造決定に始まり,錯体中のd電子密度の測定など,錯体化学は結晶学に重要な研究素材を提供し,結晶学は錯体化学に大きな影響を及ぼしてきた. そのような歴史を振り返るまでもなく,錯体化学は結晶学の観点から見ても興味深い研究対象を数多く抱えている.
2018年7月30日から8月4日にかけて,仙台国際センターにて第43回国際錯体会議(43rd International Conference on Coordination Chemistry, ICCC2018)が開催された. ICCCは錯体化学分野における最大規模の国際学会であり,この分野における最近の研究の動向を示す格好のショーケースであるため,この場を借りて紹介する.