ブックタイトル日本結晶学会誌Vol62No3
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日本結晶学会誌Vol62No3
日本結晶学会誌62,135-136(2020)最近の研究動向電荷移動と極性-非極性転移が共存する負熱膨張物質神奈川県立産業技術総合研究所酒井雄樹東京工業大学フロンティア材料研究所西久保匠,東正樹Yuki SAKAI, Takumi NISHIKUBO and Masaki AZUMA: Negative Thermal ExpansionInduced by Simultaneous Charge Transfer and Polar-Nonpolar Transitions1.はじめにほとんどの物質は温度が上昇すると,熱膨張によって長さや体積が増大する.光通信や半導体製造などの精密な位置決めが要求される局面では,このわずかな熱膨張が問題になる.そこで,昇温に伴って収縮する“負の熱膨張”をもつ物質により,構造材の熱膨張を補償(キャンセル)することが試みられている.1,2)これまでに,反強磁性転移,3)電荷移動,4-8)9,10極性-非極性転移)などの相転移が負熱膨張の起源となることがわかってきた.BiNiO 3はBi 3+ 0.5Bi 5+ 0.5Ni 2+ O 3という特徴的な電荷分布をもつペロブスカイト型酸化物である.ビスマスの一部を3価の希土類元素かアンチモン,4-6)またはニッケルの一部を3価の鉄で置換すると,6)Bi 3+ Ni 3+ O 3の価数状態が安定化されるため,昇温によってBiとNi間でサイト間電荷移動が生じるようになる.この際,Niの価数が2価から3価へ増大することで,ペロブスカイト構造の骨格を担っているNiO 6八面体が縮むため,約3%もの巨大な体積の収縮を伴う温度誘起の相転移,つまり負の熱膨張が発現する.一方,代表的な強誘電体であるPbTiO 3では,極性の構造をもつ強誘電相から非極性の常誘電相への転移に伴い,電気分極による構造歪みが解消することで,約1%体積が収縮することが知られている.われわれのグループは,d 1電子配置をとるV 4+イオンのヤーンテラー効果のため,c/a=1.23と巨大な正方晶歪みをもつPbTiO 3型酸化物,PbVO 3のPb 2+サイトをBi 3+で一部置換したPb 1-xBi xVO 3において,最大8%もの体積収縮を伴った負熱膨張を示すことを見出した. 10)本稿では,SPring-8ビームラインBL02B2での放射光X線回折,BL22XUでの放射光X線全散乱データPDF解析,BL27SUでのX線吸収分光,そしてBL09XUとBL47XUでの硬X線光電子分光といった,放射光を用いた各種回折・分光実験を組み合わせることにより起源を解明した,組成によって電荷移動と極性-非極性転移の2つの異なるメカニズムで負熱膨張を発現するBi 1-xPb xNiO11,12)3と,これら2つのメカニズムが同時に発現することで負熱膨張が増強される,BiNi 1-xFe xO13)3を紹介する.日本結晶学会誌第62巻第3号(2020)2.Bi 1-x Pb x NiO 3での組成によって変化する負熱膨張メカニズム高圧合成法を用いて作製したBi 1-xPb xNiO 3多結晶体の放射光X線回折実験の結果,3種類の負熱膨張を伴う温度誘起相転移が存在することが明らかになった(図1).0.05 ? x ? 0.15では,希土類置換体や鉄置換体同様,三斜晶から直方晶(斜方晶)への構造相転移が起こる.一方,x=0.20,0.25では,体積の大きい直方晶(直方晶Ⅰ相)から体積の小さい直方晶(直方晶Ⅱ相)へ,対称性の変化がない相転移が起こり,x=0.60,0.80では,先ほどの直方晶Ⅰ-Ⅱ転移とは異なる直方晶-直方晶相転移(直方晶Ⅲ-Ⅰ転移)が観測された.硬X線光電子分光とX線吸収分光,PDF解析から,直方晶Ⅰ相はBi 3+とBi 5+が短距離秩序した(Bi 3+ 0.5Bi 5+ 0.5)1-xPb 4+ xNi 2+ O 3の電荷分布をもっていることが明らかになった.この結果から,直方晶Ⅰ-Ⅱ転移で発現する負熱膨張は,希土類置換体や鉄置換体同様の,BiとNi間のサイト間電荷移動に起因するものだということがわかった.また,第2高調波発生(SHG)測定の結果から,直方晶Ⅲ相は極性構造であることが明らかになった.硬X線光電子分光の結果は,直方晶Ⅲ相図1 Bi 1-xPb xNiO 3の組成-温度相図.(Composition-temperaturephase diagram of Bi 1-xPb xNiO 3.)電荷分布と極性の有無が異なる3つの直方晶相が存在する.引用文献12)から許諾を得て図を転載.Copyright c 2019,アメリカ化学会.135