ブックタイトル日本結晶学会誌Vol62No3

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概要

日本結晶学会誌Vol62No3

クリスタリット動距離から回転角を読み取ることができる.このようにして撮影された写真をワイセンベルグ写真と言い,これを撮影する装置をワイセンベルグカメラと呼ぶ.原点を通る逆格子点列は水平線に対して傾いた直線上に並び,原点を通らない逆格子点列は,曲線上に並ぶ.振動写真から結晶の回転軸に沿った方向の実格子の長さを求め,ワイセンベルグ写真からこれと直交する逆格子の長さとなす角度を決定できる.また,回折斑点の指数付けが容易にでき,回折点の強度の対称性と消滅測から空間群の候補を絞り込むことができる.詳細は,日本結晶学会誌の入門講座(第43巻347頁2001年)に解説があるので,参照のこと.(北里大学・豊田理化学研究所菅原洋子)プリセッション写真Precession Photograph結晶の1軸(晶帯軸)をX線の入射方向に対してプリセッション角μだけ傾けて歳差運動をさせ,晶帯軸に垂直な逆格面上の回折点を,これと平行性を保って動く平板フィルム上に記録する.このとき,円形状のスリット(層線スクリーン)をかけて,n層の回折のみがフィルムに到達するようにすると,フィルム上に,n層の逆格子面を歪まずに撮影することができる.このようにして撮影した写真をプリセッション写真と言う.格子定数や空間群が未知の場合には,2軸についてプリセッション写真を測定することにより,格子定数を決定することができる.また,回折斑点の強度の対称性と消滅測から空間群の候補を絞り込むことができる.(北里大学・豊田理化学研究所菅原洋子)低温真空X線カメラLow-Temperature Vacuum X-ray Cameraイメージングプレート(IP)を二次元検出器とした1軸回転型のX線回折計である.結晶試料および検出器を真空チェンバーに入れることにより入射X線の空気散乱をなくすことに成功するとともに,ヘリウム冷凍機を利用して室温から30 K程度までの構造解析を可能にした.IPの読取り・消去機構を真空チェンバー内に入れ,バックグラウンドのきわめて低い回折像を連続して測定できる.このX線カメラは筆者のアイデアの下,大橋裕二教授のCREST研究費により,マックサイエンス社が設計製作した.1999年5月から2009年3月までSPring-8BL02B1ビームラインに設置されて一般利用に供せられた.このX線カメラの利用により,複核白金錯体の光励起分子の構造決定や光誘起ナイトレンの構造解析などに成功した.このX線カメラには,IP消去光の強い熱輻射による装置内の温度上昇という問題があった.(兵庫県立大学物質理学研究科鳥海幸四郎)有機固相反応Organic Chemical Reactions in Crystals1980年代後半,愛媛大学の戸田芙三夫らは,2種類の有機化合物の粉末結晶を乳鉢で混ぜ合わせるだけで化学反応が起こり,溶液で得られるものとは異なる生成物が得られることを見出し,新しい有機固相反応の化学を確立した.固相での化学反応は,結晶格子中で分子が近接して固定されて配列していることから,立体的に特異な生成物が得られること,副生成物が少ないこと,無溶媒反応であることなどが注目されている.固相反応では反応前後で単位格子の形や体積が大きく変化して結晶が粉末化するため,粉末X線回折法を用いた未知結晶構造解析の実現が強く望まれた.(兵庫県立大学物質理学研究科鳥海幸四郎)結晶スポンジ法Crystalline Sponge Method(X-ray Crystallography without the Need forCrystallization)結晶スポンジと呼ばれる多孔性配位高分子の結晶を目的化合物を含む溶液に浸すと,結晶スポンジの格子状に並んだ1 nm程度の細孔内に目的化合物が規則正しく取り込まれ,単結晶試料が作製できる.化合物が油状の試料であっても,ナノグラム量の微量試料でも結晶スポンジに取り込むことによって単結晶が得られるため,結晶構造解析が可能になる.東京大学の藤田誠らは,この結晶作製の過程を必要としない新しい結晶作製法を結晶スポンジ法と命名し,2013年に発表した.目的化合物を結晶スポンジに吸蔵して,細孔の一定位置に固定して,結晶構造解析を可能とするため,さまざまな分子間相互作用が利用されるとともに,X線回折実験は100 K程度の低温で行われる.(兵庫県立大学物質理学研究科鳥海幸四郎)204日本結晶学会誌第62巻第3号(2020)