ブックタイトル日本結晶学会誌Vol62No3

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概要

日本結晶学会誌Vol62No3

日本結晶学会誌62,200(2020)追悼大崎健次先生-個人的回想先生に最初にお世話になったのは,結晶解析計算のプログラムであった.1960年ころ,阪大に納入されていたNEAC2203という計算機のために書かれたプログラムである.計算機の動作に対応する機械語で書かれていた.点群2/mに属する空間群には適用できるかなり汎用的なプログラムであった.計算機の動作の1つ1つを記号で記述するのが機械語である.a+bの加算では,まずアキュムレーターにaを置き,次にbを加える.このような四則演算を延々と書くのである.大崎先生は結晶解析計算のプログラムを日本電気㈱から出版されていた.1)複雑な計算手順を分解して,機械語で記述したものである.命令コードは印刷物として100ページに達する長さであった.当時,大阪工業技術試験所の高分子物性研究室に所属していたが,上司の計らいで,発足当初の関西学院大学理学部で,結晶学の研究に参加させていただくことになった.そのとき,結晶学研究室の総力を挙げて取り組むテーマが舞い込んできた.仁田教授,冨家教授の下に若い駆け出しの研究者が数人で取り組んだ.分子量が数百の化合物であるが,当時としては解析が困難な対象であった.2)そのころではほとんど行われていない三次元解析を決行する方針で,日夜を問わずワイセンベルク写真を撮影し,目視でデータを集めた.構造解析をどうするか,Brを1個含んでいたので,最小値関数法を採用することになった.小生は計算を担当することになった.大崎先生のプログラムを読み込み,フーリエ求和のルーチンを借用してパターソン関数のプログラムを書いた.出力したメッシュごとの数値を方眼紙に書き写し,等高線を描く.三次元のマップを断面で描くのであるから,これも日夜を分かたず取り組んだ.幸い重原子の位置を決めることができた.最小値関数のためには,パターソン関数値をいったん記憶させておかないといけない.そのために,外部記憶装置が使える計算機が必要である.大学にはなかったので,伝手を求めて企業の機械計算部にお世話になることになった.出かけて行って,プログラムを書き,デバッグする.中堅のプログラマーの方に手取り足取りの指導をいただいた.この作業の途中で,大崎先生にお目にかかる機会があり,プログラムの詳細についていろいろとご教示いただいた.解析計算の経験豊富な先生から,多くのことを学ばせていただいた.例えば,三角関数の数値計算は展開式を使うのであるが,それにはチェビシェフの多項式を使う,それもどこまでの次数を使うかで,精度が決まるということを初めて知った.計算機の速度がいくら早くなっても,繰り返し計算の多い構造解析では,ちょっとした工夫で計算を早くすることが肝要であることを学ばせていただいた.その後も大崎先生のお仕事に触れるたびに多くのことを学ばせていただいた.引退されてからも先生にお目にかかる機会を作っては,お話することを楽しみにしていた.99歳という天寿を全うされたことをお慶びするとともにご冥福を祈ります.文献1)大崎健次:結晶構造解析の最小自乗法による精密化(その1)N3LSIMC,日本電気EOI-33300(1961).2)Y. Tomiie, A. Furusaki, K, Kasami, N. Yasuoka, K. Miyake, M.Haisa and I. Nitta: Tetrahedron Lett. 4, 2101(1963).(安岡則武)200日本結晶学会誌第62巻第3号(2020)