ブックタイトル日本結晶学会誌Vol62No3
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日本結晶学会誌Vol62No3
日本結晶学会誌62,198-199(2020)大崎健次先生を偲んで世界中がコロナ禍で大騒ぎとなっていた2020年(令和2年)4月13日,日本結晶学会第18代会長で,京都大学名誉教授の大崎健次先生が,100歳でご逝去され,ご本人の意向でしめやかなご葬儀がご家族で行われました.当時ロックダウンとなり買い物も自由にできなくなった分,Amazonが大活躍しましたが,その創始者ジェフ・ベソスは,1995年マイクロソフトWindows95発表のとき,今日の成功を思い描いたと言われています.テスラ・モーターズのイーロン・マスクに至っては,高エネルギー物理学を学ぶためスタンフォード大学大学院へ進学しますが,Windows95発表を見て,たった2日在籍しただけで退学,ビジネス界に身を投じます.このように,世の中にはまるで未来が見えているのではないかと思える人がいらっしゃいます.今では,当たり前のように使っている「データベース」も,大崎先生がいらっしゃらなかったらどのようになっていたかどうかわかりません.そういう意味で,大崎先生もそのお一人だったのではないかと思えてきます.大崎先生は,大正9年神戸市でお生まれになりました.大阪府立北野中学,大阪高等学校理科乙類をご卒業になった後,大阪帝国大学理学部化学科結晶学の仁田勇研究室で,卒業研究「Ca(HCOO)2の結晶構造」に従事,昭和18年にご卒業になりました.その後,大阪大学大学院特別研究生になられましたが,戦中戦後の難しいときでしたのでその一時期,大阪ミナミで喫茶店をされていたと伺いました.その店は,誰でも一度はその前を通ったことのあるような超一等地で,のちに,内田裕也,沢田研二などグループサウンズのメンバーをその界隈から排出したと聞いています.そのためか,「私は,プロですので,コーヒーにはちょっとうるさいのですよ」とおっしゃって,「お砂糖やミルクはコーヒーの味をダメにします.」とよくブラックで飲んでおられました.昭和20年に終戦となり,10月に仁田研の助教授渡辺得之助先生が物理教室の教授に昇任されたとき,その助手に任命されました.昭和33年米国ロックフェラー財団奨学金により,イスラエル・ワイズマン研究所G. M. J.Schmidt教授の下で固相における化学反応と構造の研究に従事され,次に,英国オックスフォード大学で研鑽されました.ケイヒ酸アミドの結晶を屋上で20時間くらい日光にあてると,結晶中で反応が進行するため,ワイセンベルグカメラのX線写真を見ると,アミドからの散乱X線でストリークを引いているのが明瞭に示されます.これで,分子というものは結晶中,生きた状態で封じ込められているだけで,場合によっては,固相反応を示すことが実証されました.「蟻酸ストロンチウム二水和物の結晶構造」で理学博士を取得され,昭和35大崎健次先生年大阪大学理学部講師,昭和37年助教授と昇進され,昭和39年に京都大学薬学部教授ならびに大学院薬学研究科担当になられました.それまでおられた理学部と,新しく研究室を構えられた薬学部とでは,かなり様子が違ったとみえて,「私が講義をしますときに,結晶構造をどうやって決めるかというお話をしても,大部分の学生さんには役に立たないだろうと思いましたので,その話は省略して,むしろこういうデータを与えられて自分でモデルを組み立てるということは,かなりの学生さんが将来必要になるだろうと考えまして,それに必要なことは講義でも話しましたし,一般実習でもそういう実習をやってもらっていました.」とおっしゃっています.薬学部での結晶学の研究室ということで,物理化学の教育とともに有機化学の新しい研究手段の1つとして期待されていました.そんな中,有機化合物の分子の立体構造が主たるターゲットになり,その中でも,生化学的に重要な化合物の構造および金属イオンとの相互作用の研究を進めるにあたり,当時,助手の多賀徹先生が直接法プログラムMULTANをベースにKPAXという解析プログラムシステムにまとめられました.その頃は,現在のようなシンクロトロン放射光などなく,また,4軸回折計もその精度が十分でないなどで,結局,管球によるワイセンベルグカメラによる写真法で回折データを収集していました.デンシトメーターが整備されるまで,1つ1つの回折点の黒化度を肉眼で評価するという,今では考えられないような厳しい実験が行われていました.その後,このKPAXシステムは,より大きな分子量の分子にも拡張され,免疫抑制剤タクロリムスの解析と,それが必須である臓器移植につながりました.医薬品分子は,ほかの分子と相互作用してはじめて薬理作用を発揮します.そのための医薬品における分子間相互作用の研究で,当時大学院生であった松島正明先生は,アンチピリンとサリチル酸の複合体について,中島威198日本結晶学会誌第62巻第3号(2020)