ブックタイトル日本結晶学会誌Vol62No3
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日本結晶学会誌Vol62No3
日本結晶学会誌62,133-134(2020)最近の研究動向多孔性分子結晶の動向と展望大阪大学大学院基礎工学研究科物質創成専攻久木一朗Ichiro HISAKI: Recent Progresses in Porous Organic Crystals1.はじめに用途に応じて合成した構成分子を配位結合や共有結合を用いて連結させた結晶性の多孔質フレームワーク(それぞれMetal-Organic Framework:MOF/Porous CoordinationPolymer:PCPおよびCovalent-Organic Framework:COF)が,機能材料への応用・実装を視野に入れて盛んに研究されている.これに触発され,多孔性分子結晶(PorousMolecular Crystal:PMC)の構造と機能開拓に関する研究も再び活気を帯びている.1)内部空間を有する分子結晶としては,包接結晶がこれに先行する.結晶の内部空間にゲスト分子を取り込むことができる包接結晶は,再結晶の際に共存する溶媒やゲスト分子をサイズ,形状,官能基,あるいはキラリティを識別して選択的に包接・分離することが可能である.この包接結晶のうちゲスト分子を取り除いても空間が維持できる系がPMCであると解釈できる.PMCは非共有結合性の分子間相互作用が可逆的に作用して形成されるため,多くの場合X線構造解析ができる単結晶として得られる.その反面,構造の脆弱性と構造設計性がこれまで問題であった.特に構成分子からPMCを事前設計することは難しく,多くの試行錯誤が必要であった.しかし近年,所望のPMCを容易に構築することができるようになってきた.その鍵は,結合指向性の高い水素結合を積極的に利用した分子のネットワーク化にある.水素結合性のPMCは,MOFやCOFになぞらえHydrogen-bonded Organic Framework:HOFと呼ばれることが多い.2,3)本稿では,古典的なカルボン酸の2量化を利用したHOFを中心にそれらの構造と開拓されつつある機能について最近の動向を述べる.HOFは2015年から活発に報告されるようになった.4)多くの系は配座自由度が小さく剛直なπ共役骨格に,同じく剛直なスペーサーを介して複数のカルボキシ基を幾何学的に導入する分子設計を採用している.低い配座自由度は,分子ネットワークの設計や単結晶構造解析を容易にするだけでなく,粉末X線構造解析での直接空間法による初期構造の決定や,結晶構造予測による構造同定・推定も可能にする重要な要素である.HOFの多孔性の評価は,N2やCO 2の吸着実験から求めた比表面積を基に行う.主なHOFのBrunauer-Emmett-Teller(BET)比表面積は以下のとおりである;1a:1095,1b:654-751,2:687-1025,3:2066,5a:1014-2122,5b:2573,6:465,7a:1140-1690,7b:600,8:1121,9:788,10:577,13a:649,13b:1288,16:555(単位:m 2 g-1).大量の気体2.カルボン酸の多孔性分子結晶の現状水素結合によるカルボン酸の二量化は最も単純で古典的な超分子シントンであるが,その直線的な結合指向性は分子ネットワークを事前設計するために都合がよい.また汎用な物質であるため種々の誘導体を容易に入手することができる.図1には,代表的なHOFの構成分子の構造を示す.カルボン酸を基盤とした永続的多孔性日本結晶学会誌第62巻第3号(2020)図1永続的多孔性を有するHOFを与えるカルボン酸誘導体の例.(Examples of carboxylic acid moleculesyielding HOFs with permanent porosity.)133