ブックタイトル日本結晶学会誌Vol62No3

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概要

日本結晶学会誌Vol62No3

タンパク質結晶学の発展と未来BL32XU(マイクロフォーカス),BL41XU(高強度,高エネルギー)BL45XU(自動&ハイスループット),BL44XU(蛋白研:生体超分子複合体),BL12B2(台湾NSRRC:汎用)],Photon Factoryに,5本[BL-1A(微小結晶,低エネルギー),BL-5A(ハイスループット),BL-17A(微小結晶,低エネルギー),AR-NE3A(ハイスループット)AR-NW12A(ハイスループット)]のタンパク質結晶構造用ビームラインが利用できる.それぞれのビームラインは,光源,光学素子,検出器,試料周りなど,個性豊かなものになっており,目的に合わせて選ぶことができる.特に,最近開発された10μm以下のマイクロビームを利用できる高フラックス・マイクロフォーカスビームラインは,GPCRのように結晶性は良いけれども大きな結晶が得られないタンパク質からの回折強度データ収集には必須のビームラインとなっている.16)また,2 A付近の長波長のX線が利用できるようになったことで,17)S-SAD法の適用範囲が大きく広がり,多くのタンパク質結晶で位相問題が解決するようになったと言える.一方,データ収集から構造解析までの多くのステップが自動化され,結晶学を知らなくても構造解析ができるようになってきたことで,構造の信頼性を担保することの重要性が認識されるようになりwwPDBが中心となって評価基準が示されるようになった.18)精密化に関しては,最尤法が利用されるようになるなど,より「信頼性の高い」構造が得られるようになってきている(図3).この20年間で,膜タンパク質や巨大な複合体など,数多くの成果が報告されており,我が国においても,Ca 2+-ATPase(PDB ID:1IWOなど),AcrB(PDB ID:1IWGなど),Vault(PDB ID:4V60),PS II(PDB ID:3A0Bなど),ヒスタミンH1受容体(PDB ID:3RZE),Dynein(PDBID:3VKGなど),Cas9(PDB ID:4OO8など)など,数多くの成果が挙げられてきている.3.2より複雑な構造図4に2001年前後での解析された構造のポリマー鎖の数を示す.これらの図から,2つ目の座標軸である「より複雑な系を作る構造」について,この20年間で,より複雑で大きな分子の構造解析が行われるようになっていることが見て取れる.生体内では,複数のタンパク質分子が離合集散しながら働いている場合が多く,そのような状態の構造解析例が増えてきているのは自然な流れと言える.2020年7月1日までにX線結晶構造解析で決定された最もポリマー鎖の数の多い分子は,Panicum MosaicVirus(PDB ID:4V99)であり,480のポリマー鎖を含んでいる.ちなみに,2000年まででは,Bacteriophage GA(PDBID:1GAV)の45が最高であった.一方,巨大な複合体―特にゆらぎの大きな複合体―については,近年急速に技術革新が進んでいるクライオ電子顕微鏡による単粒子解析のほうが,結晶を必要とせず,また複数の構造をクラス分けにより分離することができるなどの有利な点が多く,生体超分子複合体構造解析の主流になっていくことは間違いがない(図5).図4解析された構造中のポリマー鎖の数の分布.(Number of polymer chains in the entries.)図3 2000年前後での精密化プログラムの変遷.(Refinement programs used before/after 2000.)日本結晶学会誌第62巻第3号(2020)図5分子質量100 kDa以上の構造解析数.(Number ofstructures of which molecular mass are greater than100 kDa.)2020年に入り,クライオ電子顕微鏡による構造解析数がX線結晶構造解析による構造解析数を上回った.(2020年7月1日現在)187