ブックタイトル日本結晶学会誌Vol62No3

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概要

日本結晶学会誌Vol62No3

日本結晶学会誌62,185-189(2020)70周年記念ミニ特集(1)歴史編タンパク質結晶学の発展と未来大阪大学蛋白質研究所中川敦史Atsushi NAKAGAWA: Protein Crystallography: Recent Advances and the FutureProtein crystallography has made remarkable progress in the past 20 years. This manuscriptoverviews the advances in protein X-ray crystallography in this two decades.1.はじめに編集委員の方から,「結晶学この二十年」をキーワードに結晶学会70周年記念誌への寄稿を依頼されたとき,何を書こうかと考えて,改めて50周年に諸先生が書かれた記事を読ませていただきました.そこでは,日本における結晶学の黎明期から現在の結晶学会の発展へとつながっていく様子が,生き生きと描かれており,改めて先達の作られた歴史の上に,われわれが研究を進めていくことができているということを実感させられました.日本結晶学会に入会したのが修士1年のときで,これまでの研究者生活のほとんどすべての期間を結晶学会にお世話になってはいるものの,まだ「歴史」を書くような歳ではないと思っていますが,この機会に放射光や遺伝子組換え技術,コンピュータの進歩など,現在のタンパク質結晶学や構造生物学の発展を支える技術が大きく発展することで,X線結晶学の視点でどのように進歩してきたかを概観することにしました.2.タンパク質結晶学の発展期(2000年以前)図1にProtein Data Bank(https://wwpdb.org)への登録構造数を示す.この図が示すように1990年半ば以降からその数が飛躍的に増加してきており,現在では年間10,000件近くのタンパク質の立体構造がX線結晶構造解析により決定されている.この登録数の飛躍的な増加の最も大きな理由は,言うまでもなく遺伝子組換え技術によりタンパク質を「作る」ことができるようになったことである.タンパク質分子の立体構造の重要性は古くから知られていたが,遺伝子組換え実験技術が確立されるまでは,ミオグロビンやヘモグロビンのように天然で大量に得ることができるタンパク質や,バクテリアや植物由来のタンパク質などのように培養や栽培ができる生物種由来のタンパク質のみが研究対象であったのに対して,遺伝子組換え技術が,初心者でも簡単に使えるようになったことで,天然では微量にしか得られないタンパ日本結晶学会誌第62巻第3号(2020)図1PDBへの構造登録数.(Numberofstructuresdepositedin the Protein Data Bank.)(上)累計.(下)年ごとの登録数.(2020年7月1日現在)ク質も構造解析の対象となるようになった.さらに1980年代半ばから,高エネルギー物理学研究所・放射光実験施設(Photon Factory)1)など,いわゆる第2世代の放射光施設が稼働し,実験室のX線発生装置に比べて1/10くらいの大きさ(体積で1/1,000程度)の結晶から,1週間近くかかっていたデータ収集を数時間で行うことが可能となった.2)放射光は,実験室での回転対陰極式X線発生装置と比べて,明るい(輝度が高い)だけでなく,平行性が高く,モノクロメータの利用により高い単色性が得られることから,バックグラウンドが低く,より精度の高185