ブックタイトル日本結晶学会誌Vol62No3
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日本結晶学会誌Vol62No3
田中勲見える.逆格子や点群が,文字どおり,見えるのである.私の場合はワイセンベルグカメラだったが,4年生のときにそれを使って,あるペプチド結晶の空間群P4 12 12を決定したときの達成感は今でも忘れられない.私にとって結晶学の最初の成果だったのだから.9.おわりにこの分野で50年間研究を続けて,現時点の技術で物事の限界を決めてはいけないことを学習した.われわれは1人で科学しているのではない.ほかの科学分野,さらには科学者以外も含めた人類全体の英知で,世の中は発展していく.自分が今日できないことが,明日にはどこかで可能になるかもしれない.蛋白質結晶学の技術も,他分野の発展,他分野のアイデアから生まれたものがほとんどである.計算機,放射光,遺伝子工学,情報処理技術など,その例は枚挙にいとまがない.日本の大学の研究室の1つの大きな問題は,他分野との情報交換の機会が少ないことにある.それもあって大学の研究室に入ると,学生の視野は,途端に小さくなりがちである.積極的に他分野にも興味をもち,他分野の社会に溶け込んで欲しい.そして,必ず打開策が生まれることを信じて,未来に続く大きな研究に挑んで欲しい.この50年間で技術は一変したが,一方で,文化や伝統と呼ばれるものは,世代が変わってもあまり大きく変わらないことも学んだ.50年前,欧米の進んだ科学は科学雑誌でしか知ることができない時代,欧米へ行って勉強することは科学者になろうとする若者の夢だった.近年,外国に留学しようとする若者が減少しているという.50年前と異なり,日本の大学の研究環境は欧米と肩を並べている.インターネットが発達している時代,わざわざ外国に行かなくても,情報の最先端にいることは可能であろう.しかし,他国の,特に近代科学が生まれた国の,文化や伝統を体験することは,我が国の科学を考える上でおおいに役立つと思う.日本の若者が,大志をもって世界に羽ばたき,世界をリードする日が来ることを願いながらこの稿を終える.プロフィール田中勲Isao TANAKA北海道大学名誉教授Professor Emeritus, Hokkaido Universitye-mail: tanaka@castor.sci.hokudai.ac.jp専門分野:蛋白質結晶学184日本結晶学会誌第62巻第3号(2020)