ブックタイトル日本結晶学会誌Vol62No3

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概要

日本結晶学会誌Vol62No3

高分解能透過電子顕微鏡の現在と今後図2名古屋大学で開発された入射電子がスピン偏極しているパルスTEM(E=20~40 kV).4)(Pulse-TEMusing spin-polarized electrons developed at NagoyaUniversity;(E=20~40 kV).)図3微分位相コントラストSTEM法の原理図.8),19)(Principle of differential phase contrast STEM.)得るには装置の安定度やデータ収集について抜本的な改善が必要である.いずれにしても,このような研究によって従来は異分野であったパルスレーザー分光法と原子を観察するTEM法が研究者層としても結合する状況となっている.8.電子波の位相計測―ホログラフィー―ついで,試料を透過した電子の位相計測の進展について記す.この領域では1960年代から極細ワイヤを使ったMollenstedt型バイプリズムを使った電子線ホログラフィーが知られている.この10年間の主なる研究は結晶の平均内部電位V 0による位相変化を測定して半導体や電池電極界面の電位変化を観察することやスカルミオンなどの微小磁性体の観察である.原子間隔の情報を与えるVgをも取りこんだ原子レベルホログラフィーはドイツのLichteらが行っているが,通常のTEMやSTEMの以上の新しい情報が得られているわけではない.ホログラフィーの実験手法では日立の谷垣らが複数のバイプリズムを使い,干渉領域をバイプリズムのワイヤの両側から離れた場所にも設定できるようにしたことは今後の新しい実験のきっかけとなると考えられる.5)試料傾斜法を使った試料中の電場と磁場ベクトルの分離,およびその三次元再構成の研究もある.5)またパナソニックの野村らによる電池電極に外部電位をかけたときのポテンシャル場の漏れをなくした試料作製技術も特筆される.6)9.微分位相コントラスト法の発展2012年の柴田の研究以来7)新しく1つの研究領域を形成したのは高分解能STEMを使った微分位相コントラ日本結晶学会誌第62巻第3号(2020)ス法(Differential phase contrast;DPC),それも単位胞の中の電場を可視化する方法の研究である.この方法は実験的にはオランダのFEI技術者や英国のChapmanら,理論的にはドイツのRoseが1970年代に研究発表していたがしばらくは顕微鏡研究者によって忘れられていた.こ8の間日本では日立の高橋)により,1990年代に図3のような試料下に置かれた円盤状分割型検出器を用いA~D信号の演算により試料の磁場ベクトルのDPC観察が行われていたことは記しておきたい.柴田らはSrTiO 3単結晶を用い,収差補正した極細電子プローブをこの単位胞の中に入射し,試料下にでてきた「屈折」した電子を動径方向4分割,方位角方向4分割の検出器を用いて検出し,その加減演算によって像コントラストを得て,それが投影された電場分布にあたることを発表した.7)以後,欧州の研究者もこの方法の研究に取り組み,2020年の現在では商品化もされ,また実験データから電場や電荷分布を求めるソフトも実用化されている.また結像理論としては,古典的な電子の屈曲現象をエーレンフェストの定理により量子論として対応させる考え9)や,フーリエ光学理論と同様な展開がある(Lazic).初期には試料下のCBED図形の電場磁場による横ズレという言葉でこのコントラストの成因が議論されたが,上記のフーリエ光学理論によってCBEDの回折円板の「強度分布の重心の移動」という量が定量解析に重要なポイントになることが明らかにされた.磁場ベクトルの観察法としては1970年代からTEMのローレンツ法が標準的な方法として知られているが,焦点はずれ像を使うためと,試料近傍には対物レンズの強い磁場が及ばないような必要条件によって分解能が177