ブックタイトル日本結晶学会誌Vol62No3

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概要

日本結晶学会誌Vol62No3

野田幸男と時間軸1,000 ch程度に分解しているので,ピクセル当たりにすれば10カウント程度のデータです.これを束ねてI(d)に縮約する(タイムフォーカス)ので,短時間で質の良いデータが取れるのです.単結晶装置でも,非弾性散乱装置でも同様です.結局は,ストレージの発達により,無駄かもわからないデータでもすべて取っておいて,後からゆっくり処理をするという思想です.5.おわりにこの50年を振り返ると,コンピュータの役割は非常に大きいものです.まずは,装置の制御に使われて徹夜などの作業が大幅に減りました.次に起こったことは構造解析などの計算時間の大幅な短縮です.皆さんがもっているラップトップコンピュータは40年前のスーパーコンピュータの何百倍もの能力をもっていて,計算センターで一晩かかった計算が,目の前で10秒もあれば済んでしまいます.そして,現在起こっていることは大量のデータ取得と保存,そしてデータ処理です.普通のユーザーにとって,生データの処理はほとんど無理になってきており,メーカーやビームライン担当者がどれだけ使いやすく処理してくれるかにかかってきています.この5年ほどソウル大のピラタスのX線装置のアドバイザーをやっていて,プログラムの開発も行っています.そこでソウル大教授に聞かれたことが,「そのうちにAIが発達して,人間が関与しなくても正しい構造解析結果が測定直後に出てくるので専門家は必要なくなるのでは」というものでした.私の答えは「NO」です.AIには教師が必要です.AIは秀才であり努力家で,教えたことは教師以上の能力を示します.ルーチン的な解析はAIにすぐにでも置き換わることでしょう.でも,科学は経験したこともない新しいことにこそ意味があると私は思っています.知識や知能ではAIにかなわなくなるでしょうが,知性で勝負するときには,やはり人間でしょう.現在のトレンドは迅速測定です.時間のかかる精密測定法などは辺境の地に追いやられていますが,二次元検出器などでは測定不能なくらいの弱い超格子反射の探索や,多重反射を避けるための特殊な測定など,全滅させることはできない手法です.生物の進化を見ると,中央で繁栄している種族も環境の急変で絶滅します.そのようなときに空白地に進出してきて繁栄するのは辺境にいた弱者です.それも,多数いる弱者のうち偶然にも新しい環境に適応したものです.大事なことは,多様性を容認するかどうかです.随分前に,高名な教授が「結晶学などと言う古い学問はもう不要ではないですか」と発言したときに,ある人が「Rietveld法と言う新しい解析法も結晶学者が開発してきたものです」と返答したら,それ以降そのような発言はなくなりました.ユーザーの裾野が拡大することは非常に大事ですが,次の20年,日本結晶学会会員の皆様がいかに革新的な手法を発明してこの分野を発展させていくか,楽しみにしています.文献1)野田幸男,岩崎不二子,大隅一政,佐々木聡,安岡則武:日本結晶学会誌42, 196(2000).2)野田幸男,安岡則武,大﨑健次:日本結晶学会誌42, 197(2000).3)森昌弘,野田幸男,山田安定:日本物理学会予稿10.10-10.12,11aJ-5, No.2, p.70(1975).4)Y. Noda, M. Mori and Y. Yamada: J. Phys. Soc. Jpn. 45, 954(1978).5)O. Shimomura, K. Takemura, Y. Fujii, S. Minomur, M. Mori, Y.Noda and Y. Yamada: Phys. Rev. B18, 715(1978).6)Y. Yamada: Ferroelectrics, 35, 51(1981).7)Y. Noda: Process in Condensed Matter, Plenum PublishingCorporation, p.333(1988).8)H. Konishi and Y. Noda: Process in Condensed Matter, PlenumPublishing Corporation, p.309(1988).9)Y. Noda, S. Nishihara and Y. Yamada: J. Phys. Soc. Jpn. 53, 4241(1984).10)野田幸男,内貴唯八,梶谷雅典:日本結晶学会誌25, 222(1983).11)Y. Noda, H. Kasatani, Y. Watanabe and H. Terauchi: J. Phys. Soc.Jpn. 61, 905(1992).12)野田幸男:日本結晶学会誌38, 339(1996).13)T. Inami, K. Ohwada, H. Kimura, M. Watanabe, Y. Noda, H.Nakamura, T. Yamasaki, M. Shiga, N. Ikeda and Y. Murakami:Phys. Rev. B66, 073108(2002).14)Y. Noda, K. Ohshima, H. Toraya, K. Tanaka, H. Terauchi, H. Maetaand H. Konishi: J. Synchrotron Rad. 5, 485(1998).15)Y. Noda, K. Akiyama, T. Shobu, Y. Kuroiwa, H. Nakao, Y. Morii andH. Yamaguchi: Ferroelectrics 217, 1(1998).16)R. Kiyanagi, A. Kojima, T. Hayashide, H. Kimura, M. Watanabe,Y. Noda, T. Mochida, T. Sugawara and S. Kumazawa: J. Phys. Soc.Jpn. 72, 2816(2003).17)T. Arima, A. Tokunaga, T. Goto, H. Kimura, Y. Noda and Y. Tokura:Phys. Rev. Lett. 96, 097202(2006).18)Y. Noda, H. Kimura, Y. Kamada, T. Osawa, Y. Fukuda , Y. Ishikawa,S. Kobayashi, Y. Wakabayashi, H. Sawa, N. Ikeda and K. Kohn:Physica B 385-386, 119(2006).19)C. -H. Lee, Y. Noda, Y. Ishikawa, S. -A. Kim, M. Moon, H. Kimura,M. Watanabe and Y. Dohi: J. Appl. Crystallogr. 46, 697(2013).20)T. Ohhara, R. Kiyanagi, K. Oikawa, K. Kaneko, T. Kawasaki, I.Tamura, A. Nakao, T. Hanashima, K. Munakata, T. Moyoshi, T.Kuroda, H. Kimura, T. Sakakura, C. -H. Lee, M. Takahashi, K.Ohshima, T. Kiyotani, Y. Noda and M. Arai: J. Appl. Crystallogr.49, 120(2016).21)K. Momma and F. Izumi: J. Appl. Crystallogr. 44, 1272(2011).プロフィール野田幸男Yukio NODA東北大学Tohoku University〒980-8577仙台市青葉区片平2-1-1東北大学多元物質科学研究所2-1-1 Katahira, Aoba-ku, Sendai 980-8577, Japane-mail: yukio.noda.d5@tohoku.c.jp最終学歴:大阪大学専門分野:構造物性現在の研究テーマ:マルチフェロイック,装置開発174日本結晶学会誌第62巻第3号(2020)