ブックタイトル日本結晶学会誌Vol62No3

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概要

日本結晶学会誌Vol62No3

X線と中性子による構造物性研究の変遷―この50年を振り返り―中性子の分野でも二次元検出器が一気に広がりました.2006年頃に韓国原子力研究所HANAROの李彰熙氏に頼まれて中性子用二次元検出器の開発とそれを利用した回折装置の建設を手伝いました.平板の検出器から出発して,プロトタイプの湾曲検出器に進み,最終的には世界最大の湾曲二次元検出器を作って,2009年には四軸回折装置と組み合わせたBioDというビームラインをHANAROに立ち上げました.19)開発時には,プロットタイプ装置をFONDERに持ち込み日本でも多くの実験を行いました.コミッショニングの5年ぐらいはさまざまなデータ解析用プログラムの制作を石川君と行い,韓国のユーザーにも開放しました.HANAROは2014年に炉室内での小火を理由に長期のシャットダウンとなります.それ以降,ヨーロッパやオーストラリアやアメリカの中性子施設で二次元検出器の導入がものすごい勢いで進み,現在では二次元検出器の使用が世界の標準となりつつあります.2011年の大地震以降JRR-3Mのシャットダウンが続く日本は,この状況に関しては残念ながら蚊帳の外の状態です.一方,東海村に加速器を使用した量子ビームの大型施設J-PARCが建設され,パルス中性子施設MLFが建設されます.2008年に初ビームが出て,Day One実験がSuperHRPDで行われました.神山さんがKENSのSIRIUSの装置をまずは移管して建設した超高分解能粉末回折装置です.SPring-8のBL02B1の粉末装置と同じ分解能をめざしていました.パルス中性子と粉末法とは相性が良くて,iMATERIA,NOVA,SPICA,PLANETなど多数の粉末構造解析装置が作られました.一次元検出器PSDを二次元的に試料周りにぐるりと配置して立体角を稼ぎ,時間軸方向で波長分解するので,数分でデータが取れる迅速装置となります.あるいは,数mgの粉末微小試料での解析をめざします.単結晶構造解析装置としては,タンパク試料のためのiBIX,極端条件下のためのSENJUが建設されました.SENJUでは通常の4 Kの低温以外に,50 mKの低温,7Tの高磁場なども用意されています.20)試料体積としては0.1 mm 3を目標として,これまで大きな結晶ができなくて不可能だった物質にも中性子での構造解析が適用可能となりました.SENJUはパルス中性子の共用法で建設された最初の装置です(図5).装置提案のときに予想した有機物や酸化物の構造解析は思ったほどユーザー需要がなく,現在は磁気構造解析のユーザーが圧倒的に多数となっています.放射光はさらに先を行きます.2009年の日本放射光学会評議員会でX線自由電子レーザーFELを次期計画の第1位として推薦した後,理化学研究所の石川さんが予算獲得と建設を行い,またたくまに超微小試料での単パルス構造解析へと突き進んでいきます.たまたまうまく取れた単パルスによる二次元データを多数集めて構造解析を行います.試料はこの単パルスで一瞬にして壊れ日本結晶学会誌第62巻第3号(2020)図5 SENJU初ビーム時の立ち上げグループ写真.2012年3月5日.(Group photo at the first beam on SENJU,taken on 5 March 2012.)ますが,壊れる前にブラッグ反射強度を集めるという,以前なら想像すらできない手法が確立してきました.さらに,高輝度化で可干渉性(コヒーレンス)が上昇して,試料の不均一性に由来するスペックル測定も可能になりつつあります.SPring-8では大和田さんがリラクサー強誘電体の解明に利用しようとしています.回折技術は均一試料での周期性を利用する手法ですから,これまでは不均一性の科学は苦手な領域でした.これから不均一性の科学は大きく進展する領域でしょう.最後にプログラムの発展にも言及しておきます.粉末法は定性的な利用にしか向いていない手法とされていましたが,Rietveldが粉末中性回折パターンの解析法を開発して以降,コンピュータの発達とともにRietveld法は爆発的に普及しました.さまざまなプログラムも開発されて,現在では初めて実験する学生さん達でも答えが出てきます.単結晶用プログラムもShelx以外に多数世の中に出てきています.ヨーロッパ発信のソフトが多いのですが,粉末も単結晶も扱えるようになってきています.世界中で新しい使いやすいプログラム開発が進んでいますが,生き残るのには,いかに改善の努力が継続しているのか,啓蒙活動がどれだけ盛んに行われているのか,かゆいところに手の届くソフトか,等々が重要です.付け加えておきたいのは,門馬さんと泉さんの開発したVESTA 21)の役割で,構造の可視化により圧倒的説得力をもつようになりました.検出器が二次元化することによりデータ量が爆発的に増えました.HANAROの二次元検出器では,現実的な分解能に合わせてぎりぎりまでデータ量を減らしましたが,それでもフレーム当たりのデータ数はバイナリーデータとして290 kBあり,0.2°分解能の回転角でも1,800フレームですから,1つの測定で0.5 GBぐらいにはすぐになってしまいます.J-PARCでのデータはさらに大量となります.タイムスタンプのデータは将来の拡張性も考慮してイベントごとに8バイト取っています.粉末法でのデータ量は,測定当たり10 GBぐらいにはすぐなりますが,1,000本近くのPSDに対してそれぞれ空間64 ch173