ブックタイトル日本結晶学会誌Vol62No3

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概要

日本結晶学会誌Vol62No3

野田幸男図3SPring-8中央口からの四軸回折装置搬入.14)(Transportingthe 4-circle goniometer into the experimental hall atSPring-8.)図4JRR-3MのT 2-2ビームポートに設置されたFONDER.(FONDER at T 2-2 beam port of JRR-3M.)が示されたわけです.tool-driven revolutionという言葉がありますが,2000年代になってからは二次元検出器で測定することが世界標準となってきました.1990年代には2つの大規模施設が動き出しました.中性子の改造三号炉JRR-3Mの利用開始(1990年)と放射光施設SPring-8の造成開始(1990年)および利用開始(1997年)です.SPring-8にはその前身である関西6GeV計画からかかわり,SPring-8の構造相転移SGの責任者を寺内さんから引き継いで装置の提案を行いました.大野さんからBL02B1に共用法の最初の装置を「構造相転移・粉末・化学反応・散漫散乱」SG用に一台建設してもらいたいと打診されました.いろいろ協議した結果,短いカウンターアームおよびアナライザーを付けた長14尺カウンターアームをもった四軸回折装置)を建設しました(図3).長尺カウンターアームには粉末回折用のソーラースリットを,あるいは層線スリットとソーラースリット付きの大型湾曲イメージングプレートを取り付けることができるようにしました.試料環境装置として,4 Kクライオスタット,高圧用ダイヤモンドアンビルセル,1,000 Kの高温炉,粉末用のスピンドル,と盛りだくさんの装置です.基本設計としては実験室の装置の放射光への拡張版で,高分解能を狙っていました.h-BaTiO 3の粉末回折ではΔ2θ=0.0085°,Δd/d=0.03%の分解能が出ていますし,15)単結晶だと,背面反射に長尺カウンターをもっていってRubyの(0 0 48)反射を±172°で測定してc=1,299,588(7)fmでΔc/c=0.0005%という驚異的な値を得ることができました.しかしながら,結晶のセンタリングや測定に長時間がかかり,放射光を使用しても決して迅速測定にはなりませんでした.1997年に,改造三号炉JRR-3MのガイドホールのT 2-2ポートに中性子四軸回折装置を科研費で建設することになりました.名前をFONDERとしました.この装置でも,4 Kクライオスタット,後には2.3 Kクライオスタット,電場印加装置,ピストンシリンダー型高圧装置,NEOMAX磁石を使った磁場印加装置,と盛りだくさんの試料環境装置を取り揃えました.中性子の装置にはあまり迅速という概念がなく,集光により必要な結晶体積がそれまでの100 mm 3から10 mm 3に一桁減らすことができたというのが売りでした.一方,粉末回折装置では,一次元検出器PSDをずらりと並べて迅速化を図るということが世界のトレンドとなります.JRR-3Mでは,原子力研究所の森井さんがHRPDを,東北大の山口さんと大山さんがHERMESを建設しました.FONDERで得られた成果としては,X線と中性子を用いた水素結合中の水素の電16子分極測定)と,マルチフェロイックスの電気分極を17),18誘起する磁気秩序構造)の解明です.1970年代に盛んに行われたペロブスカイト型強誘電体相転移での原子変位は10 pm程度でしたが,マルチフェロイックスの電気分極に伴う原子変位は100 fm程度で,現在でも構造解析という観点では解明されていない分野です.図4は,JRR-3MのT 2-2ビームポートに設置されたFONDERで,クライオスタットがのっています.4.微小結晶と多次元検出器と多量データの時代最後に,ここ最近の20年の動向です.一言で言えば,微小結晶と多次元検出器による迅速測定とビッグデータ処理がトレンドです.東工大の大橋先生はリガクと共同で吹きつけ装置とイメージングプレートの普及品を開発し,多くの研究室に導入され大成功を収めました.SPring-8では,BL02B1の大型湾曲イメージングプレートが粉末にも使えることを見た高田さんと坂田さんのグループがBL02B2に大型湾曲イメージングプレートと吹きつけ装置で粉末回折ビームラインを立ち上げます.これは迅速測定装置であり,多数のユーザーを集めて大成功を収めました.X線メーカーは微小点の封入管と集光ミラーを組み合わせ,低電力装置にもかかわらず実験室でμmの微小結晶で構造解析ができる装置を売り出します.検出器もCCDや光子計測の二次元検出器で秒以下の測定が可能となりました.最近のX線回折装置の標準品では,二次元検出器とκゴニオと吹きつけ装置と組み合わせて,微小結晶・低温・迅速測定が売りになっています.大きな予算さえ取れれば,今まで考えられなかったような条件でも,ほとんど経験なしに構造解析の結果が出るようになっています.172日本結晶学会誌第62巻第3号(2020)