ブックタイトル日本結晶学会誌Vol62No3

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概要

日本結晶学会誌Vol62No3

X線と中性子による構造物性研究の変遷―この50年を振り返り―の放射光施設PFやパルス中性子施設KENSの立ち上げがありました.それらに絡んだ予算が山田研にもやってきて,ラウエTVやCCD検出器やMCPD一次元検出器の開発にも手を染めました.学生の児島君が中心になり開発しました.SITカメラを使ったラウエTVでは封入管のW線X線源程度で結晶を回すとラウエパターンが動いて見え,十分実用に耐える物でした.CCD検出器は山田先生の友人から手に入れたテーパー付きのガラスファイバー表面に蛍光物質を塗り,浜松フォトニクスのイメージインテンシファイヤで増強するもので,これもブラッグ反射がその場観察できました.実験室レベルではどれもうまくいったのですが,実用にはなりませんでした.個人的教訓としては,「最終的にはメーカーと協力しないと製品にはならず普及しない」ということです.1970年代は,X線発生装置も封入管から回転対陰極型の強力X線発生装置に変わりつつありました.PSPC一号機とともに山田研にも回転対陰極型発生装置が導入されましたが,真空装置は熱拡散ポンプで,回転ターゲットはオイルシールでした.真空度は悪くて,そのために,月に一回は分解掃除をしていて,回転対陰極の分解掃除のプロになっていました.1982年頃に新型の回転対陰極型の強力X線発生装置が入ってきました.真空装置はターボ分子ポンプで,回転ターゲットは磁気シールでした.微小点フィラメントで高分解能をめざしました.おかげで,フィラメントの寿命は1年間と伸びて,メンテナンスが非常に楽になりました.この発生装置は40年経った今でも現役として東北大学で活躍しています.2000年頃の話ですが,東北大学にリガクの人が「微小点の回転対陰極X線発生装置」という物があると聞いたので見せて欲しいと訪ねてきました.リガクの人に理学電気の装置を見せて説明することになりました.そのときはわからなかったのですが,ここ最近の20年の装置の動向と関係していたのです.これに関しては後で述べることとします.組み立てを行いました.X線発光点から1mぐらいに試料があり,モノクロメーターを外して自然発散角を小さくしてブラッグ反射の半値幅が0.02°という高分解能で構造解析ができるようになりました.この分解能は放射光PFのベンディングマグネットビームラインと同等です.ブラッグ反射のバックグラウンドとなっている熱散漫散乱分布の数十分の一の幅なので,質の良いデータが取れました.基本的には高分解能をめざした装置です.また,三菱財団の支援金が当たり,湾曲イメージングプレートを用いた層線スリットとソーラースリット付きのワイセンベルグ写真のシステムをマックサイエンスに注文しました.二軸回折装置と10 Kクライオスタットと組み合わせて,低温で広い逆格子空間を迅速に測定する装置というアイデアです.12)このときも,予算が足りなく,ある研究所の注文品で切り出したジュラルミンブロックの残り部分を流用するのなら予算内で作ると言われ,そのサイズを起点にして設計を行いました.図2は湾曲したイメージングプレートを使用したワイセンベルグカメラとHeガス冷凍機とを組み合わせた装置です.東北大学に移った直後にSPring-8の稲見さんがやってきて,BaVS 3の70 Kの金属絶縁体相転移には構造相転移が伴わないと長い間言われていたが,本当かどうか調べて欲しいと頼まれました.結晶をクライオスタットに入れて振動写真を撮るとその夜には超格子反射が(H,K,L+1/2)に見つかりました.(H,0,L+1/2),(0,K,L+1/2),(H,H,L+1/2)に反射がでないために今まで見逃されていたようです.結晶を四軸回折装置に移して超格子反射の温度変化を測定し,金属絶縁体相転移温度以下で超格子反射が出現することを確かめ,長年言われていたことが間違っていたことが数日で確定しました.13)二次元検出器で逆格子の広い範囲を俯瞰的に見ることの威力3.精密測定か迅速測定か日本結晶学会発足50周年記念号は2000年の発行ですが,その10年ぐらい前の1990年から2000年にかけてさまざまなことがありました.個人的には千葉大学の時代です.設備更新費をもらい10 Kクライオスタット付きの四軸回折装置を仁木工芸とマックサイエンスに発注しました.ちょうどその頃は,フーバーの四軸回折装置とクライオスタットが物性研究を行っている多くの研究室に導入されだしたときです.しかしながら,まともに動いている研究室は1つとしてありませんでした.予算が足りないので値切りに値切り,納入は赤帽の配達,設置と調整は自分たちで行いました.微小点X線装置の高さがあわないのでスペーサーをリガクに発注して学生さん達と自動車のジャッキで持ち上げて回転対陰極部分の日本結晶学会誌第62巻第3号(2020)図2イメージングプレートを用いた低温ワイセンベルグカメラ12)とBaVS 3の構造相転移の発見.13)(Lowtemperature Weissenberg camera by using Imaging-plate.Oscillation photograph of BaVS 3 at 100 K and 25 K.)171