ブックタイトル日本結晶学会誌Vol62No3
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日本結晶学会誌Vol62No3
野田幸男整法や修理法をみっちり教えてもらいました.回折計もコンピュータ制御で,パルスモータで回ります.ミニコンのプログラムは緊張物で,一文字でも入力を間違えるとハングして,一時間かけて紙テープでプログラム再読込となります.光学式読み取り装置に買い換えてもらい,数分で読み込めるようになったときの感動は忘れることができません.このプログラムも森さんが全面的に書き換えて,使い勝手の良い装置となりました.私の博士論文のK 2PbCu(NO 2)6のヤーンテラー相転移4)の研究でも,散漫散乱の測定にこのPSPCとTUNSの装置が活躍しました.一次元検出器は大変強力で,物性研の藤井さんが下村さんと竹村さんを引き連れてヨウ素の高圧粉末実験5)にもやってきました.ただ,単結晶の実験を行おうとすると,コンピュータのバックアップツールが何もない時代なので,データ処理とそこから情報を引き出すのに大変苦労しました.そのときに学んだ教訓は,「不要と確認できたデータはすぐに捨てて残さない」ということでした.また,「データに見たい物が測定されていない」という学生さんの言葉は信用せずに,「自分でデータをしゃぶり尽くすように見ること」でした.図1は商品化一号機のPSPCの検出器部分の写真とK 2PbCu(NO 2)6のX線散漫散乱をPSPCで測定したもので,4)円弧の部分がPSPCのカバーしている領域です.二次元マップのプログラムなどという洒落たものは存在しませんから,カラープロッターペンで強度分けして描かすプログラムを作り,トレーシングペーパーとロットリングでその図を写し取ったものです.2年間のブルックヘブン国立研究所でのポスドク時代に,白根元先生の下で実験家とはどうあるべきかをみっちりとしごかれてきましたが,その後幸運にも阪大教養部図1商品化一号機のPSPCの検出器部分と,PSPCを用いて測定したK 2PbCu(NO 2)6の散漫散乱強度分布.4)(The first commercially available PSPC and diffusescattering intensity of K 2PbCu(NO 2)6 measured byusing PSPC.)山田研に助手として拾ってもらい,PSPCを用いた時分割X線回折装置を作ることになりました.2θ方向に256 ch,時間方向に128 chの二次元データです.空間分解能は0.4mm,時間分解能は3.2μsです.ヒストグラムメモリーとして64 kBのSRAMを備えていたモンスターマシンで,ヨーロッパの研究者も見学に来ていました.しかしながら,納入したベンチャーが倒産してしまって,電子回路のバグ取りとプログラム作りに一年間格闘しました.完成した頃には,LSIの型番もインテル80系のCPUコードもASCIIコードも空で言えるほどのお宅と化していました.データを取り始めてわかったことは,実験室のX線ではローター発生装置といえども3.2μs時間幅では何年ため込んでも信号強度がないことです.放射光のない時代,アイデア倒れでした.データとして物になったのは,まずはmsオーダーのNaNO 2の電場印加相転移過程で,6)もっぱらsecオーダーの研究をそれからすることになります.7)-9)教訓は,「よくよく考えてからプロジェクトは走らせよう」です.でも,「苦労は必ずどこかで役に立つ」です.この頃さまざまな装置を作っていました.まずは温度コントローラです.ブルックヘブンから戻ってきたときに,学生の渡邉君が新潟大の樫田さんからもらった図面でアナログの温度制御装置を作っていたのですが,それをコンピュータと通信させるようにしました.その次のバージョンとして,完全コンピュータソフトのみを使った温度コントローラをシャープのMZで作りました.これがTEMCON-IIIです.10)ずっと後になり(1987年),物性研山田研に一時いた瀬戸君から頼まれて市販品のみでTEMCON-IVを作り,これが物性研中性子の温度コントローラの標準品となります.私の社会貢献として挙げることがあるとしたら,学生さん達がTEMCON-IVのおかげで,徹夜で装置に張り付いて温度制御の監視や温度変化の設定をしなくて済むようになったことでしょう.ブルックヘブンの中性子で使用していたHeガス冷凍機型のクライオスタットをX線用に作りたいと思い,大阪酸素に図面を持ち込み10 Kまで下がるX線用クライオスタットを作りました.PSPCとTEMCONと組み合わせて,当時としてはほかに類を見ない実験ができました.極低温で精密温度制御しながらの回折実験は構造物性に不可欠な技術です.これが国産一号機のX線用Heガス冷凍機型クライオスタットで,その後40年近く使い続けました.このときもガス交換方法やメンテナンスの方法など,詳しいことを教えてもらい,後々大変役に立ちました.関西学院大学寺内研に理学電気がクライオスタット付き大型四軸回折計を納入しましたが,データが取れるまでに数年かかりました.水素結合相転移の良いデータが取れましたが,11)理学電気はこの装置から撤退しました.ブルックヘブンにいたときには放射光施設NSLSの起工式に立ち会いました.1979年の帰国直後には筑波で170日本結晶学会誌第62巻第3号(2020)