ブックタイトル日本結晶学会誌Vol62No3
- ページ
- 42/92
このページは 日本結晶学会誌Vol62No3 の電子ブックに掲載されている42ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。
このページは 日本結晶学会誌Vol62No3 の電子ブックに掲載されている42ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。
日本結晶学会誌Vol62No3
鳥海幸四郎ポンジと呼ばれる多孔性配位高分子の結晶を目的化合物を含む溶液に浸すと,結晶スポンジの格子状に並んだ細孔内に目的化合物が取り込まれ,単結晶試料が作製できる.このため,化合物が油状であっても,ナノグラム量でも結晶スポンジに取り込むことによって単結晶が得られるため,結晶構造解析が可能になる.6.化学結晶学分野の課題と今後の発展への期待化学結晶学の研究者は,これまでに数多くの化合物の結晶構造を解析し,結晶構造と反応性や機能性などの関係を明らかにし,化学の発展に大きく貢献してきた.また,関連の研究者や技術者の努力によって,結晶構造解析法やX線回折装置などが急速に進歩し,良質な結晶さえあれば誰でも手軽に結晶構造解析できるようになった.これにより,自ら合成した化合物の結晶構造を自分で解析する時代となった.一方,結晶学の専門家の存在価値が失われ,その人数は減少しつつあるように思える.結晶構造解析法を発展させた努力は,科学の進歩に大きな貢献をしてきたが,その結果として自らの存在が失われつつある.しかし,これはほかの研究分野でも同様であろう.新たな研究分野の開拓,創造が求められる.この20年ほどの間,SPring-8の供用が開始されるなど,大きな変革期を経験してきた.結晶構造と種々の性質を関連付けてきた時代から,結晶中の分子の動きや反応を直接観測する時代に,反応活性種や光励起状態の分子構造を決定できる時代になってきた.この間,粉末X線回折法による有機結晶の未知構造解析が実現し,また粉末1粒を用いた単結晶構造解析も可能となった.さらに,他分野の研究者も新たな化学結晶学分野を開拓しつつある.今後の化学結晶学の発展については,すでに研究から離れた筆者には見通せない.新しい研究に挑戦するときは,新たな発想と種々の技術的な困難さを克服しなければならないが,未開拓な分野へのさらなる挑戦を期待したい.誌面の関係および筆者の勉強不足のため,多くの重要な研究や研究者名を省略したかと思います.ご容赦をお願いいたします.文献1)大橋裕二:日本結晶学会誌52, 149(2010).2)鳥海幸四郎,小澤芳樹:SPring-8利用者情報誌8, 25(2003).3)M. Mitsumi, T. Murase, H. Kishida, T. Yoshinari, Y. Ozawa, K.Toriumi, T. Sonoyama, H. Kitagawa and T. Mitani: J. Am. Chem.Soc. 123, 11179(2001).4)Y. Ozawa, M. Terashima, M. Mitsumi, K. Toriumi, N. Yasuda, H.Uekusa and Y. Ohashi: Chem. Lett. 32, 62(2003).5)S. Nozawa, S. Adachi, J. Takahashi, R. Tazaki, L. Guerin, M.Daimon, A. Tomita, T. Sato, M. Chollet, E. Collet, H. Cailleau,S. Yamamoto, K. Tsuchiya, T. Shioya, H. Sasaki, T. Mori, K.Ichiyanagi, H. Sawa, H. Kawata and S. Koshihara: J. SynchrotronRad. 14, 313(2007).6)星野学:日本結晶学会誌56, 115(2014).7)尾関智二:日本結晶学会誌53, 371(2011).8)M. Sadakane, K. Yamagata, K. Kodato, K. Endo, K. Toriumi, Y.Ozawa, T. Ozeki, T. Nagai, Y. Matsui, N. Sakaguchi, W. D. Pyrz, D.J. Buttrey, D. A. Blom, T. Vogt and W. Ueda: Angew. Chem. Int. Ed.48, 3782(2009).9)N. Yasuda, H. Murayama, Y. Fukuyama, J. Kim, S. Kimura, K.Toriumi, Y. Tanaka, Y. Moritomo, Y. Kuroiwa, K. Kato, H. Tanakaand M. Takata: J. Synchrotron Rad. 16, 352(2009).10)橋爪大輔:日本結晶学会誌61, 103(2019).11)小川桂一郎:日本結晶学会誌40, 197(1998).12)原田潤:日本結晶学会誌60, 96(2018).13)藤井孝太郎,植草秀裕:日本結晶学会誌50, 335(2008).14)藤井孝太郎:日本結晶学会誌57, 170(2015).15)久保田佳基:日本結晶学会誌59, 72(2017).16)植村卓史:日本結晶学会誌55, 75(2013).17)河野正規:日本結晶学会誌55, 7(2013).18)大津博義:日本結晶学会誌56, 323(2014).19)Y. Inokuma, S. Yoshioka, J. Ariyoshi, T. Arai, Y. Hitora, K. Takada,S. Matsunaga, K. Rissanen and M. Fujita: Nature 495, 461(2013).プロフィール鳥海幸四郎Koshiro TORIUMI兵庫県立大学物質理学研究科Graduate School of Material Science, University ofHyogo〒678-1297兵庫県赤穂郡上郡町光都3-2-13-2-1 Kouto, Kamigori-cho, Ako-gun, Hyogo 678-1297, Japane-mail: toriumi@sci.u-hyogo.ac.jp最終学歴:東京大学大学院理学研究科博士課程専門分野:X線結晶解析,錯体化学168日本結晶学会誌第62巻第3号(2020)