ブックタイトル日本結晶学会誌Vol62No3
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日本結晶学会誌Vol62No3
SPring-8のそばから見た化学結晶学の最近の歩み図1SPring-8 BL02B1に設置された低温真空X線カメラとIP多重露光Low-temperature法.(vacuum X-raycamera at SPring-8 BL02B1 and Multi-exposure IP method.)図2[Pt2(pop)4]4-の光照射に伴う電子密度の差フーリエ図.(Photo-induced difference Fourier map of[Pt 2(pop)4]4-.)分子構造と重ねて表記.Pt1*とPt2*は光照射時のPt原子の位置を示す.実線と点線はそれぞれ光照射に伴い増加,減少した電子密度を表し,等高線の間隔は0.2 e/A 3).データを連続的に測定できる装置を設計した.さらに,ヘリウム冷凍機を利用して液体窒素温度以下での構造解析を可能にした.この低温真空X線カメラ(図1)2)は大橋裕二のCREST研究費でマックサイエンス社により製作された.また,野田の強い支援の下SPring-8の協力により,1999年5月にBL02B1ビームラインに設置され,利用が開始された.この低温真空X線カメラは,X線の空気散乱がないためバックグラウンドがきわめて低いX線回折像が測定できること,ヘリウム冷凍機により結晶試料を極低温まで冷却できる利点があった.一方,IP消去光の強い熱輻射による装置内の温度上昇という問題があった.真空チェンバー内を冷却するため,冷却水を真空チェンバー内に導入する機構をつけたが,水漏れによる真空チェンバー内の真空度の低下というトラブルも起こった.2.3 低温真空X線カメラによる分子の動きの解析,一次元錯体の散漫散乱の測定と熱振動の解析この低温真空X線カメラは,30 K程度までの相転移に伴う構造変化の解析や,数ミクロン程度までの微小結晶の構造解析に威力を発揮した.満身稔らのヨウ素架橋一次元複核白金混合原子価錯体Pt 2(EtCS 2)4Iの研究では,一次元鎖上の金属原子に多様な原子価秩序配列が考えられた.真空カメラを用いたX線回折像の温度変化の観測から,散漫散乱の形状が二次元秩序構造に対応した線状から,一次元秩序構造の面状,さらに130 K以下で三次元秩序構造のブラッグ点への変化が観測された.3)また,48 Kで弱い超格子反射を含めた構造解析に成功し,一次元鎖上の新たな原子価秩序配列を明らかにし日本結晶学会誌第62巻第3号(2020)た.さらに,相転移点前後で架橋ヨウ素の熱振動が不連続的に変化する様子が明らかになった.これらの結果から,原子価揺動と原子価秩序配列が架橋ヨウ素の熱運動と密接に関係していることを示した.2.4 低温真空X線カメラとCWレーザーを用いた光励起分子の単結晶X線構造解析X線回折法を用いて結晶中の光励起分子の三次元構造を決定しようとするとき,結晶中の光励起分子の濃度はせいぜい数%程度,吸収極大波長の光は結晶中を数ミクロン程度しか透過しない,光吸収に伴い試料温度が上昇する,構造変化が大きいと結晶格子が破壊されるなど,多くの困難が予想される.これらを克服するには,試料を極低温にして励起寿命を長くする,高輝度X線を用いて高精度な反射強度測定を行う,光照射に伴う試料の温度上昇を防ぐなどが考えられる.低温真空X線カメラは,極低温で高精度な回折強度を測定できるため,光励起構造解析に挑戦した.また,小澤芳樹は回折強度の測定誤差を小さくするために,光照射時と非照射時のX線回折像を1枚のIPフレーム上に繰り返し露光するIP多重露光法(図1)を開発し,複核白金錯体の光励起構造解析などに挑戦し,光励起状態では白金間距離が0.23A短くなることなどを明らかにした(図2).4)2.5ポンププローブ時間分解X線回折装置を用いた光励起分子の構造解析光誘起相転移の研究に,結晶構造変化の視点を加えて時間分解X線回折法に挑戦したのは,東工大の腰原伸也である.腰原は,2003年,有機電荷移動錯体TTF-CA165