ブックタイトル日本結晶学会誌Vol62No3
- ページ
- 38/92
このページは 日本結晶学会誌Vol62No3 の電子ブックに掲載されている38ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。
このページは 日本結晶学会誌Vol62No3 の電子ブックに掲載されている38ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。
日本結晶学会誌Vol62No3
日本結晶学会誌62,164-168(2020)70周年記念ミニ特集(1)歴史編SPring-8のそばから見た化学結晶学の最近の歩み兵庫県立大学物質理学研究科鳥海幸四郎Koshiro TORIUMI: Recent Advancement of the Chemical Crystallography Viewed NearSPring-8Recent advancement of the chemical crystallography during these 20 years has been surveyed.Opening of SPring-8 facility and also development of the new devices such as 2D detectors andX-ray focusing mirrors, etc. have led the speed up, wide utilization, and improvement of the accuracyof X-ray crystal structure analyses. The crystal structure analysis has changed from the structuredetermination tool to the research tool of molecular dynamics and chemical reactions in crystals.Crystallographic studies of solid phase reactions have been advanced together with the developmentof the structure determination technique from powder diffraction data for organic molecular crystals.1.時代背景この20年程の化学結晶学の発展は大きく,目を見張るものがある.研究対象は,分子が三次元秩序配列した静的な結晶構造から,結晶中で分子が形を変え動き回り化学反応する動的な結晶構造へと変化した.また,研究者の広がりも顕著である.筆者が研究を始めた1975年頃は四軸型単結晶X線回折計が普及し始めた時期であり,大型計算機と桜井敏雄先生のUNICSIIIを使って専門家だけが結晶構造解析を行っていた.しかし,現在では,幅広い分野の研究者がX線結晶構造解析を1つの分析手段として利用している.また,北川進や藤田誠らは,結晶を低分子の取り込み,貯蔵,反応の場として利用し,新たな分野を切り開いた.化学結晶学の最近の発展の時代背景を筆者の経験からもう少し眺めてみたい.筆者は,博士課程では単結晶X線回折法を用いた金属錯体のd電子密度分布の解析を行ったが,当時の四軸型X線回折計を用いた実験では測定精度の向上は難しいと感じた.1978年に分子科学研究所に助手として着任後,液体窒素を用いた吹き付け型低温装置を長時間連続使用できるように改良し,分子の動きを凍結させた低温構造解析を推進した.一方,大橋裕二らはコバロキシム錯体の結晶相反応を単結晶X線構造解析から解析していた.1)この一連の研究は,今日の「分子の動きや反応を見る研究」につながっていったが,筆者も刺激を受け,光誘起反応活性種や光励起分子の構造解析に興味を抱いた.分子科学研究所には,レーザー分光などの専門家がおり,光励起分子の構造解析の可能性について情報収集した.しかし,結晶中の励起密度を数%以上にすることが難しいなどの問題点が明らかになり,将来的なテーマとした.また,同じ研究室の菅原正らは光誘起ナイトレンやカルベンの研究をしていた.それらの反応活性種の構造解析に興味をもち,単結晶試料に光照射したが粉末化してしまい,その時は構造解析できなかった.それから20年程後,放射光や二次元検出器の利用により,光誘起ナイトレンの分子構造が河野正規らによって決定され,光励起分子の構造解析も小澤芳樹や星野学らによって実現した.2.SPring-8の供用開始と放射光利用研究2.1結晶相化学反応SGの活動と放射光利用の準備この20年程の化学結晶学の発展を見たとき,SPring-8の果たした役割は大きい.SPring-8は1991年に建設が始まり,1997年10月に供用開始された.化学結晶学分野の研究者は1990年ごろから次世代大型X線光源研究会の化学反応サブグループ(SG)(代表田中清明)として研究会を開き,改組後のSPring-8利用者懇談会でも結晶相化学反応SGとして準備を進めた.筆者は,1991年にSPring-8に隣接した姫路工業大学理学部に着任してSG活動に参加し,化学結晶学分野の利用計画の検討に加わった.SPring-8では10本の共同利用ビームライン(BL)が最初に整備されることになり,構造相転移,粉末回折,散漫散乱SGとの共同利用として偏向電磁石BLとして計画された.当初,野田幸男がHuber社の多軸回折計を用いて1つの共用回折計を製作した.化学反応SGは,田中が開発した真空IPカメラを多軸回折計に搭載することを提案した.1997年3月に多軸回折計がBL02B1に設置され,調整やテスト測定が開始された.2.2低温真空X線カメラの製作とBL02B1への設置迅速に回折データを測定するためには,IP読取り・消去機構を真空チェンバー内に入れる必要があり,回折164日本結晶学会誌第62巻第3号(2020)