ブックタイトル日本結晶学会誌Vol62No3

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概要

日本結晶学会誌Vol62No3

菅原洋子図5(BEDT-TTF)3Cl 2.5H 2OのX線回折データを基に計算により得られたa*c*面(k=0)のプリセッション写真イメーCalculatedジ.(precession images for a*c*planes of(BEDT-TTF)3Cl 2. 5H 2O.)低温でh/2の位置に散漫散乱が出現.する必要があったため,急に思い立って,ないしは,急に必要が生じて測定するというわけにはいかなかった.先ほども触れたが,有機合成の分野では,不安定な化合物を扱うことも多く,低温で素早く測定することが可能になったことは,結晶学の裾野を広げることにつながっている.細かい器具としては,タンパク質結晶の低温測定の普及からいろいろな結晶のハンドリングツールが工夫され,現在では,タンパク質に限らず,低分子まで含めた単結晶構造解析の必需品になった.6.おわりに師としてスタートし,多くの方が積極的に受講されている.10)このような努力を繋いでいくことは,とても大切に思われる.水和物結晶の解析と平行して,タンパク質結晶について,結晶成長の観点から,結晶外形面と内部の相互作用の相関の解析も行ったが,このためには,構造解析装置付属のソフトで結晶の外形に現れる面を決められるツールを活用した.11)本来は,解析的な吸収補正のためのツールと思うが,少し複雑な指数の面が出ているときでも,結晶外形のビデオ画像から面指数を推定することができ,大変有効だった.一方,粉末回折測定については,コンピュータの能力が向上し,測定データをPCに取り込み,粉末回折データからの格子定数の決定がグラフィクスを用いて行えるようになった.さらには,粉末回折データからの構造決定も比較的容易に行えるようになり,12)相転移の研究が大きく進展した.しかし,粉末回折データの解析ソフトは,まだ,進展の途中段階にあると感ずる.同じデータを扱っても,経験量が,解析に成功するか否かを決定することが多い.もう少したつと,機械学習の利用も進むと考えられ,単結晶構造解析の直接法のように自動で高い打率で良い結果を出すようになると期待される.5.周辺装置の進展繰り返しにはなるが,まず,二次元検出器の実装は,転移が移行していく過程を追いかけることを可能にし,中間状態の構造決定へとつながり,転移機構の理解を深めるうえでの意義は大きい.次に,装置面での進展として,空気から窒素を取り入れるタイプの吹き付け型低温装置の開発,市販化は低温実験を容易にした.それまでは,あらかじめ,100 Lデュワーに液体窒素を用意し,測定時間が長引けばこれを交換していく作業を伴い,トランスファーチューブ内の水の凍結も起こりがちで,正直なところ,低温実験の実施は覚悟が必要だった.液体窒素を事前に業者から購入振り返ってみると,二次元検出器や窒素ガス吹き付け式低温装置などの新しい装置が開発され,コンピュータの性能の著しい向上とリンクして,測定および解析ソフトの機能が向上した結果,温度変化の実験が容易になり,また,乱れをもつ構造の解析も可能になった.測定時間および解析時間が短縮された効果は,想像を超えるものがある.一方,振り返ってみると,四軸回折計は,測定の効率化や,中間状態の検出という意味では二次元検出器に劣るが,測定の原理を体験できるという観点からは,大変優れていた.ピークサーチ,ピークリファイン,本測定という流れをトレースすること,ピークサーチで1つの回折点の四軸角を決めるために,上下,左右にハーフシャッターを入れて正確に四軸角を決める,少ない反射で,精度良く格子定数を決めるために必要な反射を選ぶ,バックグラウンドとピークの計測時間等々,すべてを人間が機械に指示を与えていた.したがって,1つ1つのプロセスの意味を実感しながら測定を進めていた.一方,現在の解析装置はCCD検出器を用いた測定から,得られたデータの処理までコンピュータにお任せで済み,ブラックボックスになってしまいがちである.また,自動化の流れの中で,結果がもう1つで,データ処理条件などをマニュアルで設定しようとすると,使い勝手が良くないことを感じることがある.仕組みや原理を知らないでも,利用できることは,利用者の裾野を広げ,魅力的である一方,そこに不安も感じる.直接法にしても,一瞬で正解が出ることは得難いことであるが,ありがたみ(=すばらしさ)がわからなくなる.そこをいかにカバーしていくかも,今後の結晶学の発展には必要と思われる.謝辞本稿で紹介した内容は,理化学研究所および北里大学理学部で行われたもので,研究に参加した多くの学生,大学院生,研究室の方々をはじめ共同研究をさせていただきました多くの方々に心より感謝申し上げます.162日本結晶学会誌第62巻第3号(2020)