ブックタイトル日本結晶学会誌Vol62No3
- ページ
- 35/92
このページは 日本結晶学会誌Vol62No3 の電子ブックに掲載されている35ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。
このページは 日本結晶学会誌Vol62No3 の電子ブックに掲載されている35ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。
日本結晶学会誌Vol62No3
結晶構造解析はどう変わったか~水和物結晶の相転移機構研究の視点を中心に図4グアノシン5’-一リン酸二ナトリウム7水和物(a)と5.25水和物(b)の結晶構造.(Crystal structures of disodiumguanosine 5’-monophosphate 7H 2O(a)and 5.25H 2O(b)with oscillation photographs.)結晶学データ7水和物orthorhombic,P2 12 12 1,a=22.25,b=9.039,c=21.36 A;5.25水和物orthorhombic,P2 12 12 1,a=21.254,b=8.860,c=64.35 A.緑枠分子層のc軸に沿った並び.右下挿入図各水和物の振動写真(CCD検出器で測定).究室系でも,封入管から回転対陰極型X線発生装置が主流に変わり,小さい結晶の測定が可能になり,また,低温測定が容易になったことは,不安定分子種の測定を可能にし,単結晶X線構造解析は有機合成分野の研究の強力なツールになった.3.粉末構造解析の進展ヌクレオチド水和物結晶では,単結晶性を保持して構造転移が進行することが多いといっても,すべての結晶がそのような特質をもつわけではない.また,単結晶性が保持されて変化が進行する試料でも,構造転移が起こる湿度条件,温度条件がまったくわからない段階では,粉末X線回折法の併用が欠かせない.この研究テーマを開始した時点で幸いだったのは,理化学研究所に共用の装置として,水平型の粉末回折計があったことがある.試料を垂直に立てて測定を行うのが粉末回折測定の標準的なスタイルだが,これでは,つめた粉末結晶が(脱水や吸湿に伴って)崩れてしまい,測定が困難だった.水平型の回折計があったからこそ,水蒸気圧と温度を同時制御した測定を進めることができた.当時と比べると,水平型の回折計の普及率がずいぶん進んだ気がしている.水平型回折計と熱分析装置を組み合わせた商品も市販されているが,これは,一長一短のところがある.転移の中には,ゆっくりと進行するものがあり(誘導期をもつなど),7)迅速な測定は,これを見逃すことにつながるという課題をもつ.このようなケースでも,変化の片鱗をモニターできることは多いので,改めて,条件を変えた測定を行うことで,カバーしていくことが必要と思える.ついでながら,著者が粉末回折計を使い始めた頃は,測定データが,記録用紙にペンで直接書かれていくスタイルで,パソコンへのデータ取り込みが可能になったのは,研究を開始してから少し後のことになる.大学院時代のラマン測定も同様で,必要とあれば,ピーク強度日本結晶学会誌第62巻第3号(2020)をチャートから物差しで読み取って(場合によってはチャートをコピーし,ピーク部分を切り抜いて天秤で重量を測定して),定量的な分析を行ったり,複数の測定データを平均化する作業を行っていた.このような手作業は,強度データの取り扱いやその精度を捉えるためのトレーニングとして,意義があったと思っている.4.計算機環境・ソフトウェアの進展まず,単結晶構造解析の面では,汎用計算機時代からPC時代へと計算機の驚くべき発展と相まって,解析ソフトの性能が飛躍的に向上したことが挙げられる.有機物の単結晶構造解析では,通常,直接法を使うが,すんなり正解が出る確率が飛躍的に高くなった.以前は,フーリエ合成図に部分構造が現れ,これをもとに,フーリエ合成や,差フーリエ合成を繰り返して,最終的に構造が決まることが普通であった.部分構造すら見えてこず,モンテカルロ法で,8)1,000個,2,000個といった候補から正解を探す作業も幾度か経験したし,そこまで大掛かりでなくても,直接法の計算を行う際に,初期条件として部分構造を入れたり,温度因子をテスト的に変えてみたり,あの手この手で,正解にたどり着くことは普通のことであった.次に,単結晶の強度データについて,カメラを用いた測定を行わなくても,CCDのデータを「プリセッション写真イメージ」に変換して眺められる(図5),9)もしくは,強度データを逆格子点上に展開して眺められることができるようになったことは,転移の過程で,散漫散乱が生じたり,超格子構造や双晶が生じたりしがちな構造転移の解析においては,大変,ありがたい進歩であった.ただ,回折写真を撮る経験をもたない世代の方が,どのような目でこれを眺めているのかは,少々,気にかかる.数年前から,日本結晶学会と高エネルギー加速器研究機構物質構造科学研究所の主催で「対称性・群論トレーニングコース」がマッシモ氏(ロレーヌ大学特別教授)を講161