ブックタイトル日本結晶学会誌Vol62No3

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概要

日本結晶学会誌Vol62No3

菅原洋子図1図2アデノシン5’-三リン酸二ナトリウム二水和物(a)と三水和物(b)の結晶構造.(Crystal structures ofdisodium adenosine 5’-triphosphate trihydrate(a)anddihydrate(b).)黒色矢印を付した結晶水は三水和物中にのみ存在する.2)灰色矢印を付した水は位置の乱れがある.室温(23℃)におけるアデノシン5’三リン酸二ナトリウム水和物結晶のa軸長の相対湿度依存性(a)と相対湿度を35%から45%に変化させた後の経時変化(b).(Humidity dependence of cell parametera of disodium adenosine 5’-triphosphate hydrate(a)and time dependence of cell parameter a after relativehumidity jump form 35%to 45%.)初めて行ったこの研究では,格子定数一点の測定に約2週間がかかり,一連の測定に数カ月を要した.図3ウリジン5’-一リン酸二ナトリウム7水和物の振動写真.(Oscillation photographs of disodium uridine5’-monophosphate heptahydrate.)300 Kにおいてh/2の位置に観測された散漫散乱が173 Kではブラッグ反射に変化.晶の結晶性を保持した構造転移は,Na 2ATPの水和物に限らない普遍的な現象であることがわかり,多くの水和物について解析を進めた.3)もちろん,本格的に解析を始めてからは,日本の四季に頼らずに,温湿度を積極的に制御し,転移機構の解析に取り組んできた.Na 2ATPの二水和物と三水和物間の転移の解析を始めた頃は,四軸回折計の時代で,重量測定で結晶水の変化を,四軸回折計で格子定数変化を追ったが,転移はゆっくりと進行し,図2に示すように,数カ月がかりの測定になった.この頃は,四軸回折計で,強度の強い反射だけを使用して格子定数変化を追っていたが,2000年代に入り,二次元検出器が使えるようになると,散漫散乱が温度や湿度条件に依存してブラッグ反射に代わって単位格子が倍になる変化(ウリジン5’-リン酸二ナトリウム(Na 2UMP)水和物結晶ほか)などの観測が可能になった(図3).4)普通のX線構造解析装置で,散漫散乱や,超格子反射をとらえることができるようになったことは,転移の機構の解析を進めるうえで大きな前進である.湿度センサーの校正用に開発された湿度発生装置を転用して,調湿ガス(空気または窒素ガス)を用意して,これを単結晶に吹き付けることにより湿度制御を行い,転移を追うことで,中間状態を捉えて,その構造を決定することが可能になった.その結果,一口に水和物結晶の脱水/吸湿による構造転移といっても,いろいろな個性をもつことを明らかにできた.脱水過程と吸着過程で異なる中間体が出現する(グアノシンほか),条件に依存して異なる無水物を与える(デオキシグアノシン5’-一リン酸ほか)などの現象は,その典型と言える.3,5,6)最近ではグアノシン5’-一リン酸二ナトリウム七水和物において,水のサイトの消失と相関して順次生じる5.25水和物,2.4水和物,0.5水和物の構造を決定することができたが,中間相では,水のサイトの消失が,一軸方向の周期を3倍にする効果を生み出す現象が見出された(図4).1)著者自身は,化学的に安定な試料を扱ってきたが,研160日本結晶学会誌第62巻第3号(2020)