ブックタイトル日本結晶学会誌Vol62No3

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概要

日本結晶学会誌Vol62No3

日本結晶学会誌62,159-163(2020)70周年記念ミニ特集(1)歴史編結晶構造解析はどう変わったか~水和物結晶の相転移機構研究の視点を中心に北里大学名誉教授菅原洋子Yoko SUGAWARA: Advance of Crystallographic Analysis-From the Viewpoint ofStructure Transition of HydratesDevelopment of crystallographic analysis in these several decades are introduced from theviewpoints of author’s research on structure transition of hydrates of nucleotides. Instruments andcomputational circumstances including program progress have qualitatively and quantitativelychanged our research. Especially, a two-dimensional detector helps in situ monitor of structuraltransitions including detection of twinning, super-lattice diffractions and diffuse scattering.1.はじめに大学院時代は振動分光学を専門としていたので,結晶学分野での研究のスタートは,大学院を終え,1982年に理化学研究所に職を得てからで,理化学研究所結晶物理学研究室で,岩崎準主任研究員(当時)のもとで,有機物の単結晶構造解析を初めて経験した.長さ0.5 mm前後の単結晶を得て,ワイセンベルグカメラでX線フィルムを用いて回折写真を撮影し,現像して,格子定数と空間群を決定し,その後,4軸型自動回折計でX線回折強度を数日かけて集め,大型計算機(汎用機)で,広幅のドットプリンターに打ち出されてくる計算結果を見ながら,構造決定を行うというスタイルが著者にとっての結晶構造解析のスタートだった.その後,大型計算機は,ワークステーション時代を経て,PCへと変わった.測定装置も,κゴニオを採用した回折計を経て,IP,CCD検出器という二次元検出器が実装されるようになり,測定面でも,解析面でも大きな転換が起きた.放射光を用いた研究については,本号に,鳥海氏が解説を書かれているので,そちらを参照していただきたい.ちなみに著者にとり,初めての放射光の利用はPFで,1980年代後半のまだ強度の減衰が大きく,8時間ごとにビームの打ち込みがあり,ビーム位置も不安定な時期であった.その後,関係者の多大な努力でビームが安定化し,安定な連続運転が実現された.最近の時分解測定や測定の自動化は,目を見張るものがあるが,本稿では,著者自身が主として実験室系で行ってきた水和物結晶の相転移機構の解析を中心に,構造解析の進展を振り返ってみたい.日本結晶学会誌第62巻第3号(2020)2.単結晶構造解析の進展水和物結晶は,無機物,有機物から,タンパク質結晶まで,結晶周りの水蒸気圧に依存して結晶から水が出入りし,構造転移を起こす.硫酸銅5水和物(青色)と無水物(白色粉末)間の転移はよく知られている.脱水に伴い,単結晶性を失う,もしくは結晶性そのものが失われるケースも多いが,核酸の構成単位であるヌクレオチドの水和物結晶では,単結晶性を保持して転移が多段に進行する.例えば,後で少し触れるグアノシン5’-一リン酸二ナトリウム(Na 2GMP)7水和物を母液から取り出して,結晶周りの湿度を下げていくと,室温で単結晶性を保って5.25水和物,2.4水和物を経て,相対湿度0%で,0.5水和物へと移行する.1)結晶構造解析を始めて間もなく,高エネルギーリン酸結合をもち,生命現象に不可欠な多くの生体反応に寄与することから有名なアデノシン三リン酸のナトリウム塩(Na 2ATP)(三水和物として結晶化)の結晶構造の精密化を行おうとして,この現象にたまたま出会った.日本は夏と冬で湿度が大きく変わることが,この発見のきっかけとなった.冬に結晶を作製し,測定を始めると,春になって湿度が上昇するのに伴い,標準反射(四軸型回折計を用いた測定では,試料およびX線源の安定性をモニターするために,3反射程度を選び100~200反射ごとに繰り返し測定することを行っていた)の強度が変わり始めた.やがて状態が安定し,目的の三水和物の構造精密化を行うことができた.ところが,翌年の冬になると,格子定数は,夏と比べて約10%短いものとなり,構造解析の結果,二水和物(新規構造)となっていることがわかった(図1).2)その後,湿度(水蒸気圧)に依存したヌクレオチド結159