ブックタイトル日本結晶学会誌Vol62No3

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概要

日本結晶学会誌Vol62No3

松畑洋文,関口隆史転位ループの構造は図4aのような構造をもつ.T 2四面体中のβ/A面間に存在する基底面の転位ループも図4aと同様な構造をもつ.B面上に存在するT 1’四面体は,T 1四面体の向きを左右で反対の向きに配置されているので,転位ループの構造はT 1四面体中の転位ループとは_(1100)面で左右反転した構造になる.A面上に存在するT 3’四面体は,T1’四面体と同じ向きを向いているので,T 1’四面体中の転位ループと同じ構造になる.3.Siコア転位,Cコア転位の識別透過型電子顕微鏡を用いて通常の2波条件でSiCの基底面転位を観察すると基底面Siコア転位,基底面Cコア転位は似たコントラストを示し,コア構造を識別することは困難である.NingとPirouzは透過型電子顕微鏡を用いて,3C-SiC中の転位について収束電子回折(CBED)図形を観察し,転位線に対してのbの向きを決定し,Siコア転位,Cコア転位の識別を行っている.33)また,らせん転位についても,ζとgが平行か反平行かをCBEDを使って調べることは可能である.LiuらはSiコア部分転位とCコア部分転位ではphotoluminescence(PL)やelectroluminescence(EL)のスペクトルに違いがあることを見出している.35)バンドパスフィルターを利用するとこれらの転位の像のコントラストに違いが表れる.現在はこの特徴を利用して顕微PL法で効率の良い基底面転位の観察と識別が主流になっている.36)われわれはSiCウエハの表面全面,電力素子全体の転位や積層欠陥を容易に観察することが可能な放射光Berg-Barrettトポグラフ法による観察を長年行ってきた.この手法を用いて,ウエハ表面の化学機械研磨中に偶発的局所的に表面直下に導入される高密度転位組織の観察,37),38)エピ層成長による転位組織の変化,21),29)デバイス特性のバラツキ,動作不良と転位や積層欠陥との関係,29),39)-42)デバイス動作によるREDG効果の観察30)などを行ってきた.同時に放射光トポグラフ法で観察される転位や積層欠陥のコントラストについての解析を行い,格子欠陥の識別方法を議論してきた.放射光トポグラフ法では,Siコア転位,Cコア転位,基底面らせん転位などは,それぞれ特徴的なコントラストを示している.以下に放射光トポグラフ法について述べる.図4鏡映操作およびc映進操作により生成される基底面転位ループ.(Generations of basal-plane dislocationloops by mirror and c-glide_operations.)(a)α/C層間に存在するb=1/3[1120]の基底面転位ループのコア構造の配置.α/C,β/A層間に存_在するShockley型積層欠陥をType Aとする.(b)(1100)面に存在_するc-glide映進対称性により導かれたb=1/3[1120]の転位ループ.α/B,γ/A層間_のShockley型積層欠陥をType Bとする.(c)(1120)面に存在する__鏡映対称操面により(a)か_ら導かれたb=1/3[1 120]の転位ループ.(d)(1100)面に存在する_ _c-glide対称性により(c)から導かれたb=1/3[1 120]の転位ループの転位ループ.破線はSiコア転位,実線はCコア転位,グレー部は積層欠陥.ζは時計回りとする.4.放射光Berg-Barrettトポグラフ法による基底面転位の観察図5に放射光Berg-Barrettトポグラフ実験の配置を示す.Berg-Barrett法は,表面すれすれにX線を入射させて適切なBragg反射を励起させ,トポグラフ像を撮影する方法である.表面から浅い領域にX線が侵入するので,ウエハ表面や表面近傍,エピ層部のみ,表面に作製された電力素子部を選択的に観察することができ,ウエハ内部に多量に存在している高密度転位などの像と重ならないように観察することができる.X線の侵入深さはX線の波長,励起させるBragg反射,物質中でのX線の吸収係数に依存する.像分解能は,入射X線の発散角や,像の記録媒体の分解能に依存する.放射光を利用すると小トポグラフ像図5放射光を用いたBerg-Barrettトポグラフ法の配置.(Experimental setting of synchrotron Berg-Barretttopography.)152日本結晶学会誌第62巻第3号(2020)