ブックタイトル日本結晶学会誌Vol62No3

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概要

日本結晶学会誌Vol62No3

エンドセリンB型受容体の結晶構造と活性化機構の解明ET-3ET-1S6bIRL1620BosentanK8794ApoIRL2500IRL1620は,ET-1のN末端領域が欠損し,いくつかの変異が加わった線状ペプチドである.IRL1620はET-1のαヘリックス領域やC末端領域と同様の相互作用を形成していたが,TM6との相互作用が少ない分,1 A程度内側への動きが小さかった.そのため,受容体中間部の水素結合ネットワークが崩壊せず,活性型と不活性型構造の中間に位置していた.この結果を基に機能解析を行った結果,IRL1620は受容体を完全に活性化できない部分作動薬であることを示した.こうした成果は,IRL1620にはB型選択的作動薬として改善の余地があることを示すとともに,構造情報に基づいたIRL1620の改変や低分子化につながる.8.まとめTM6TM7図10すべてのETB構造の重ね合わせ.(Superimpositionof the ETB structures determined to data.)筆者は最終的に,最近報告したヘビ由来のエンドセリン様毒素が結合した状態を含め,10)これまでに8つのETB構造を決定した.その構造をすべて重ねると(図10),TM6,7の位置と活性・不活性状態に相関があることがわかった.まず,結合ポケットが開いているのが非結合状態であり,薬剤が結合することでポケットは閉じる方向に動く.しかし,拮抗薬の結合に伴う構造変化はわずかである.一方,エンドセリンなどの作動薬が結合するとTM6,7が大きく内側へ動き,受容体コアの相互作用の再編成された結果,細胞内側の活性化へとつながる.部分作動薬であるIRL1620はその動きがわずかに小さい.このように,結晶構造自体は1つのスナップショットでしかないが,複数の状態を重ね合わせることで生体内に近い分子の動きを捉えることができた.謝辞今回の結晶学会進歩賞の受賞に関しては多くの方々にご協力いただき,誠に感謝を申し上げます.本研究は大変な困難を伴いながらも,結果的には5報の論文としてまとめることができ,欧米が先行していたGPCR構造研究において存在感を示せたと思います.エンドセリン研究を続けて,4年生の半年の間でしたが指導していただいた故奥田明子博士には大変感謝しております.生きている間にET-1結合型構造を見せることができたので,本当に良かったです.1994年から研究を続けていた土井知子先生や藤吉先生には研究者としての生き方を教えてくれました.また,ET-1結合型の結晶化を行っていただいた共同研究者である西澤知宏博士や,博士途中からの研究留学を受け入れてくれた濡木先生の懐の広さはとてもありがたかったです.最後に,忙しい私をいつも支えてくれている妻に感謝いたします.文献1)R.J.Lefkowitz:ABriefHistoryofG‐ProteinCoupledReceptors(Nobel Lecture)(2012).2)M. Yanagisawa, et al.: Nature 332, 411(1988).3)A. P. Davenport, et al.: Endothelin. Pharmacol Rev. 68, 357(2016).4)A. Okuta, et al.: J. Mol. Biol. 428, 2265(2016).5)W. Shihoya, et al.: Nature 537, 363(2016).6)W. Shihoya, et al.: Nat. Struct. Mol. Biol. 24, 758(2017).7)K. Hirata, et al.: Acta Crystallogr, D Struct. Biol. 75, 138(2019).8)C. Nagiri, et al.: Commun. Biol. 2, 236(2019).9)W. Shihoya, et al.: Nat. Commun. 9, 4711(2018).10)T. Izume, et al.: Biochem. Biophys. Res. Commun. online ahead ofprint(2020).プロフィール志甫谷渉Wataru SHIHOYA東京大学理学系研究科生物科学専攻Department of Biologi cal Sciences, Graduate Schoolof Science, The University of Tokyo〒113-0033東京都文京区本郷7丁目3-1東京大学理学部1号館東棟583The University of Tokyo7-3-1 Hongo, Bunkyo-ku, Tokyo 113-0033, Japane-mail: wtrshh9@gmail.com最終学歴:名古屋大学大学院創薬科学研究科博士課程,博士(創薬科学)専門分野:構造生物学,シグナル伝達蛋白質現在の研究テーマ:GPCRおよびロドプシン趣味:漫画日本結晶学会誌第62巻第3号(2020)149