ブックタイトル日本結晶学会誌Vol62No3
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日本結晶学会誌Vol62No3
日本結晶学会誌62,143-149(2020)総合報告(学会賞受賞論文)エンドセリンB型受容体の結晶構造と活性化機構の解明東京大学理学系研究科生物科学専攻志甫谷渉Wataru SHIHOYA: Crystal Structures of Human Endothelin ETB Receptor Reveal theReceptor Activation MechanismEndothelin receptors(ETA and ETB)are G-protein-coupled receptors activated by endothelin-1and are involved in blood pressure regulation. Using the microfocus beamline BL32XU at SPring-8,we determined 8 crystal structures of human ETB receptor, revealing the drug binding modes andreceptor activation mechanism.1.GPCRについて1.1 GPCRとはGタンパク質共役受容体(GPCR)とは,7回膜貫通型の膜受容体であり,細胞外のホルモンを受容することで細胞内のGタンパク質を活性化する.活性化されたGタンパク質は,GαとGβγサブユニットに解離しそれぞれ下流の効果器と結合してシグナル伝達カスケードをオンにする.この過程でシグナルが増幅される.Gαには種類があり,G sやGiは膜結合型アデニル酸シクラーゼを活性化してcAMPの産生をそれぞれオンまたはオフにする.一方,GqはPLCを活性化することで小胞体からのCa 2+シグナリング,G 12/13はRhoキナーゼを活性化する.GPCRはヒトで約800種類存在しており,各々が独自のリガンドを受容し,活性化するGタンパク質の種類にも選択性がある.それゆえ,創薬標的としての重要性が高く,現在使われている薬剤の約30%がGPCRを標的としている.1.2 GPCR研究の歴史GPCR研究の先駆けは,1900年代初頭にアドレナリンの作用を説明するのに“receptive substance”という概念が提唱されたのが最初である.1)しかし分子実態が不明であり,1970年代まではその存在は懐疑的であった.レフコビッツは放射性リガンドを用いてアドレナリン受容体の存在を証明し,受容体を精製し再構成系を用いることで,Gタンパク質と共役することを示した.さらに,β2アドレナリン受容体のクローニングに成功し,この配列が視覚ロドプシンと相同性をもつ7回膜貫通型であることを発見した.この配列情報を用いることでGPCRが続々とクローニングされた結果,GPCRはヒトで最大のスーパーファミリーを形成しており,多様な生理活性物質を受容することが明らかになった.日本結晶学会誌第62巻第3号(2020)1.3 GPCR構造研究の歴史2000年にはGPCRとして初めて視覚ロドプシンの構造がSPring-8の放射光ビームによって決定され,7回膜貫通の基本的なフォールドが解明された.しかし,ホルモンを受容する一般的なGPCRは構造が柔軟で不安定であり,精製・結晶化が困難を極めた.そのため,誰も成功しない時代が7年間続いた.しかし,2007年にコビルカが構造認識抗体や細胞内ループにT4リゾチームとい図1αRasβγαAHαRasβγαAH下流の効果器へ結合二次メッセンジャー濃度の増減シグナル伝達へリガンド受容体αAHαRasβγGDPαRasβγαAHαRasβγαAHGTPαRasβγαAHGタンパク質活性化の反応サイクル.(G-protein activationcycle.)3量体Gタンパク質は普段はGDPが結合しており,不活性状態を保っている.受容体にリガンドが結合すると,細胞内側が開くことでGαと相互作用できるようになり,GDP-GTP交換反応を促進する.GTPが結合した3量体Gタンパク質はGαとGβγに解離し,下流のシグナル因子と結合する.Gαに結合したGTPは,Gαの構成的GTPase活性により分解されてGDPとなり,再びGβγと会合し不活性型3量体を形成する.143