ブックタイトル日本結晶学会誌Vol62No3
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日本結晶学会誌Vol62No3
佐藤友子域の散乱強度には25 GPa付近に極大が見られた.SiO 2ガラスの4→6配位の配位数増加は加圧過程では20 GPaから40GPaにかけて起こることを考えると,加圧過程におけるI avの25 GPa付近の極大は,配位数の増加つまり短距離構造の変化に対応するものと考えられる.一方,減圧過程では15 GPaから10 GPaにかけてFSDPの位置と高さが急激に変化するのに対応して,低Q領域の散乱強度も12.5 GPa付近で急激に増加し,その後減少している.減圧過程のFSDPの位置と高さの急激な変化は6→4配位の構造変化を示すと考えられるので,12.5 GPa付近の強度増加も同様に構造変化に起因すると考えるのが自然である.4-6配位構造変化中にX線小角散乱強度が増加することは,構造変化の中間状態が不均質であることの決定的な証拠である.図2に,小角領域の散乱が最も顕著である減圧過程・12.5GPaのパターン,以下に述べる拡張Debye-Beucheモデルへのフィッティング結果と,求められた一次元密度ゆらぎのモデルを示す.小角X線散乱強度は電子密度分布の自己相関関数のフーリエ変換であり,散乱体が明確な形状をもたない場合にも,自己相関関数を仮定することによって不均質構造のスケールや密度差などの情報を引き出すことができる.Debye-Beucheモデル10)は,散乱体が明確な形状をもたない二相混合状態の解析に用いられる.相境界がシャープでない場合に拡張すると,1原子当たりの平均散乱強度はI02IQ ( )HQ ( ) I2 2 2intr(1)( 1 Q )と定式化される.ξは相関長,I intrは過冷却液体の密度ゆらぎに由来するintrinsicな散乱強度である.H(Q)はスムージング関数の一次元形のフーリエ変換であり,境界が幅Eをもって変化するようなモデルを採用した場合,I03 2E8 V ( 1 ) 1 2(2)32 EQHQ ( ) sin(3)EQ 2となる.9)ここで,φは第一相の体積割合,Δρは二相の(電子)密度の差,Vは1原子が占める平均体積であり,8πξ3が不均質ドメインの体積の指標となる.図2の減圧・12.5 GPaにおいては,FSDPの位置と状態方程式に基づいて,体積比と密度差をそれぞれφ=0.5およびΔρ=1.0 g/cm 3と仮定し,Q=1.0 A-1付近での強度をI intrとした.フィッティングの結果,I 0,ξ,Eはそれぞれ45 eu/atom,3.2 A,3.5 Aとなり,ドメインサイズは6 A程度と見積もられた.4配位でも6配位でもSi-O距離は1.6~1.7 A程度であることを考えれば,1)相転移中は数個のSiO 4四面体あるいはSiO 6八面体がドメインを形成していると考えられる.ただし,境界の幅はドメインサイズと同程度と広く,この境界領域はいわゆる5配位構造に近いものであると推測される.分子動力学計算からは,相転移中,4配位,5配位,6配位をとるケイ素イオンが共存し,5配位の割合はかなり大きくなることが示唆されている.今回のI(Q) [e.u./atom]図260504030201000.0I intr12.5 GPa, decompressionModified Debye-Beuche model0.5Q [1/A]結果は,そうした計算からの示唆と整合的である.一方,加圧過程では低Q領域の立ち上がりは減圧過程ほど明瞭ではない(図1a).式(2)より,I0はξの3乗に比例することから,ドメインサイズが加圧過程では減圧過程より小さいためと推測される.加圧過程と減圧過程のドメインサイズの違いは,4配位と6配位の構造のintrinsicな不均質性の違いに起因するかもしれない.9)Brazhkin and Lyapin 11)が提唱したモデルによれば,ドメインサイズが小さくなるほどエネルギー準位の分布が幅広くなるため,相転移の圧力幅とドメインサイズは反比例するとされている.実際,4-6配位構造変化の圧力幅は減圧過程でより狭く(図1b),今回の結果は,このモデルとも整合的である.1.0Density fluctuation [g/cm 3 ]ξ= 3.2 A, E = 3.5 A,Δρ= 1.0 g/cm 3 0.0 Boundary-0.5DomainX線小角散乱によって得られたモデル(図2)は,二相混合状態であるにもかかわらず,光学顕微鏡で粒界や亀裂などの不均質が観察されないことをよく説明する.まず,6~7Aのドメインサイズは可視光の波長に比べ十分に短いため,光学顕微鏡によって識別することはできない.さらに,4配位のドメインと6配位のドメインの間の幅広い境界領域が,2つのドメインの中間的な構造を取り緩衝材として機能することで,大きな密度差をもつ二相が破壊せずに共存することを可能にしていると考えられる.連続かつ均質に変化するように見えても,実際には中間的な構造をもつ境界領域を緩衝材とした二相混合状態となって,二相の割合が変化することで不均質に相転移が進行していくという描像は,ほかのさまざまな非晶質-非晶質相転移についても当てはまると推測される.今後,高圧下その場X線小角散乱測定をさまざまな物質に適用することで,ポリアモルフィズムについての理解の一層の深化が期待される.文献1)T. Sato and N. Funamori: Phys. Rev. B 82, 184102(2010).2)S. Petitgirard, et al.: Phys. Rev. Lett. 119, 215701(2017).3)C. Prescher, et al.: Proc. Natl. Acad. Sci. USA 114, 10041(2017).4)S. K. Lee, et al.: Phys. Rev. Lett. 123, 235701(2019).5)佐藤友子:高圧力の科学と技術24, 155(2014).6)松岡秀樹:日本結晶学会誌41, 213(1999).7)乾雅祝ほか:日本結晶学会誌48, 76(2006).8)藤澤哲郎:波紋16, 60(2006).9)T. Sato, et al.: Phys. Rev. B 98, 144111(2018).10)P. Debye and A. M. Bueche: J. Appl. Phys. 20, 518(1949).11)V. V. Brazhkin and A. G. Lyapin: JETP Lett. 78, 542(2003).0.5DomainBoundary-505r [A]Domain減圧・12.5 GPaにおける低Q領域散乱パターンと拡張Debye-Beucheモデルに基づく一次元密度ゆらぎモデル.(Low-Q x-ray scattering pattern of SiO 2 glassat 12.5 GPa on decompression and a one-dimensionaldensity-fluctuation model based on the extendedDebye-Beuche model.)138日本結晶学会誌第62巻第3号(2020)