ブックタイトル日本結晶学会誌Vol62No3
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日本結晶学会誌Vol62No3
日本結晶学会誌62,137-138(2020)最近の研究動向SiO 2ガラスの高圧下における不均一構造:小角X線散乱を用いたその場観察広島大学大学院先進理工系科学研究科佐藤友子Tomoko SATO: Inhomogeneity in SiO 2 Glass under High Pressure: In-situ Observationwith Small-Angle X-ray ScatteringSiO 2(シリカ)は典型的なガラス形成物質であり,窓ガラスや食器・実験器具など,幅広く用いられているさまざまなケイ酸塩ガラスの主要成分である.ケイ酸塩ガラスは,SiO 4四面体を基本単位としてそれらが相互に結合して形成されるネットワーク構造(中距離構造)を特徴とし,このネットワークは圧力に対して興味深い応答を示す.例えば,SiO 2ガラスは室温下において,2 GPa付近で圧縮率の異常を示し,さらに9 GPa以上に加圧すると,密度が増加した高密度化ガラスが回収される.この現象は永久高密度化現象と呼ばれ,SiO 4四面体ネットワークの繋ぎ変わりに起因すると考えられており,加える圧力・温度によって,最大20%まで任意の密度増加量をもつ高密度化ガラスを合成できることが知られている.20 GPa以上では,Siの配位数増加が起こり,基本単位,つまり短距離構造がSiO 4四面体(4配位)からSiO 6八面体(6配位)に変化し,少なくとも100 GPaまでは6配位構造が保たれることがわかっている.1)最近では,放射光を用いた100 GPa超におけるその2場密度)3・X線回折)・X線ラマン4)測定も報告され,結晶よりも低い圧力で6配位以上の短距離構造をとりうる可能性が指摘されている.つまり,SiO 2ガラスは,圧力増加とともに常圧相→高密度化相→6配位相→…というように,(準)安定構造を変化させる.これらの相は対応する結晶相に類似の圧縮挙動を示し,常圧相はcristobalite,高密度化相はcoesite,6配位相はstishoviteに対応していると考えることもできる.5)このような非晶質-非晶質の構造変化は,結晶の相転移(polymorphism)との類似点も多く,ポリアモルフィズム(polyamorphism)と呼ばれる.一方,非晶質の圧力誘起構造変化は結晶のそれと異なる点も多い.例えば,最大20%までの「任意の」密度の状態が得られるというのは,シリカ結晶の場合には考えられない.また,4配位から6配位の配位数増加は20 GPaから40 GPaという広い圧力幅にかけて連続的に起こることが知られており,5)結晶間の相転移とは大きく異なっている.高密度化ガラスや配位数増加中のガラスは見た目や光学顕微鏡観察では一様であり,ミクロンスケールでは均一である.構造変日本結晶学会誌第62巻第3号(2020)化がそれ以下のスケールでも均一で連続的に起こるのか否かは,通常の回折測定では明らかにすることができない.小角X線散乱は,回折よりも大きなスケールの電子密度の不均一を観察する手法である.6)物質科学への応用は幅広く,高圧下でも,金属流体・分子性流体の超臨界状態7)や高分子・生体分子の圧力応答8)などの観察に用いられているが,1万気圧(1 GPa)以下の比較的低い圧力領域における報告が主である.筆者らは,放射光とダイヤモンドアンビル装置の組み合わせによって,SiO 2ガラスの100 GPa領域までのその場小角X線散乱・回折測定を実現した.実験上のさまざまな制約により測定Q領域は0.14~4.0 A-1と限られたが,SiO 2ガラスの圧力誘起構造変化の中間状態における不均一構造を捉えることに成功した.本稿では,圧力誘起配位数変化に伴って現れる不均一構造について紹介する.9)図1aにSiO 2ガラスの0~40 GPaのX線小角散乱・回折パターンの加圧・減圧過程における変化を,図1bには低Q領域(Q=0.14~0.6 A-1)の強度の平均値I avと第一回折ピーク(FSDP)位置の圧力変化を示す.加圧過程では,10 GPa以上ではFSDPの位置と高さは単調に変化する一方,低Q領(a)I(Q) [e.u./atom]I(Q) [e.u./atom]2001501005002001501005000I av0 GPa5 GPa10 GPa15 GPa17.5 GPa20 GPa22.5 GPa25 GPa27.5 GPa30 GPa32.5 GPa35 GPa40 GPa1FSDPCompressionDecompression234Q [1/A](b)I av [e.u./atom]2520151040 GPa35 GPa2.430 GPa25 GPa22.5 GPa2.220 GPa17.5 GPa15 GPa12.5 GPa2.010 GPa7.5 GPa5 GPa0 GPa1.8I avFSDP position [1/A]501.61.404 6CompressionDecompression4 610 20 30Pressure [GPa]図1(a)SiO 2ガラスの高圧下におけるX線小角散乱・回折パターンと(b)低Q領域の平均強度I avとFSDP位置の圧力変化a)X-ray.((scattering patterns of SiO 2 glassunder high pressure,(b)Pressure dependence of I av andthe position of the FSDP.)10 GPa以下ではI avはFSDPの裾の影響を受けているため灰色でプロットしている.編集部注:カラーの図は電子版を参照下さい.40137