ブックタイトル日本結晶学会誌Vol62No3

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概要

日本結晶学会誌Vol62No3

酒井雄樹,西久保匠,東正樹図2 Bi 1-xPb xNiO 3の負熱膨張メカニNegativeズムthermal.(expansion mechanisms in Bi 1-xPb xNiO 3.)0.05 ? x ?0.25ではサイト間電荷移動により(上),0.60 ? x ?0.80では極性-非極性転移により(下),負の熱膨張が発現する.から直方晶Ⅰ相への転移で電荷移動が起きていないことを示しており,直方晶Ⅲ-Ⅰ転移での負熱膨張は電荷移動ではなく,PbTiO 3やPbVO 3ベースの負熱膨張材料と同様な,極性-非極性転移であることがわかった(図2).図3BiNi0.7Fe0.3O3の放射光X線回折パターン(左)とPDF解析結果(右).(Synchrotron X-ray diffractionpatterns(left)and PDFs(right)of BiNi 0.7Fe 0.3O 3.)引用文献13)から許諾を得て図を転載.Copyright c 2019,アメリカ化学会.3.BiNi 1-x Fe x O 3での2つのメカニズムの同時発現による負熱膨張の増強BiNi 1-xFe xO 3が,0.05 ? x ? 0.15でサイト間電荷移動による負熱膨張を示すことはすでに報告したが,7)Fe置換量をさらに増やした固溶体の結晶構造と熱膨張特性を詳細に調べたところ,0.20 ? x ? 0.50の試料も負熱膨張を示すことが明らかになった.この負熱膨張は,菱面体晶相から直方晶相への相転移の際に生じ,硬X線光電子分光とPDF解析の結果から,菱面体晶相はBi3+0.5(1+x)Bi 5+ 0.5(1-x)Ni 2+ 1-xFe 3+ xO 3の電荷分布をもち,Bi 3+とBi 5+が短距離の電荷秩序した構造であることが明らかになった(図3).またSHG測定の結果から,この菱面体晶相は極性であることもわかった.これらの解析の結果,0.05 ? x? 0.15での負熱膨張は,ビスマスとニッケル間の電荷移動のみによって引き起こされている一方,0.20 ? x ? 0.50では,PbTiO 3と同様の,極性から非極性の結晶構造転移が電荷移動と同時に起こることがわかった.BiNi 1-xFe xO 3では,2価が安定なニッケルを,3価が安定な鉄で置換するため,Fe置換量の増加に伴って,電荷移動に寄与する低温相のNi 2+の量は減少する.そのため,Fe置換量が増えるに従い体積収縮の割合が減少することが予測されるが,実際には,0.20 ? x ? 0.50がは極性-非極性転移が電荷移動と同時に起こるため,負熱膨張が増強され,Fe置換量が増えても体積収縮は2%と一定であった(図4).Fe置換量を変化させても体積収縮の割合が変化しないことは,負熱膨張材料の特性が安定することを意味する.複数のメカニズムを組み合わせることの有用性が示されたことで,今後の負熱膨張材料の設計指針構築につながると期待される.図4BiNi 1-xFe xO 3の負熱膨張メカニズム(上)と負熱膨張による体積収縮のFe置換量依存性(下).(Negative thermal expansion mechanisms(top)andFe concentration dependence of the volume shrinkage(bottom)of BiNi 1-xFe xO 3.)0.20 ? x ? 0.50では,サイト間電荷移動と極性-非極性転移が同時に起こることにより,負の熱膨張が増強される.引用文献13)から許諾を得て図を転載.Copyright c 2019,アメリカ化学会.文献1)東正樹,岡研吾:日本結晶学会誌54, 325(2012).2)K. Takenaka: Sci. Technol. Adv. Mater. 13, 013001(2012).3)K. Takenaka and H. Takagi: Appl. Phys. Lett. 87, 261902(2005).4)M. Azuma, et al.: Nat. Commun. 2, 347(2011).5)K. Oka, et al.: Appl. Phys. Lett. 103, 061909(2013).6)T. Nishikubo, et al.: Appl. Phys. Express 11, 061102(2018).7)K. Nabetani, et al.: Appl. Phys. Lett. 106, 061912(2015).8)Y. W. Long, et al.: Nature 458, 60(2009).9)J. Chen, et al.: J. Am. Chem. Soc. 133, 11114(2011)10)H. Yamamoto, et al.: Angew. Chem. Int. Ed. 57, 8170(2018).11)K. Nakano, et al.: Chem. Mater. 28, 6062(2016).12)Y. Sakai, et al.: Chem. Mater. 31, 4748(2019).13)T. Nishikubo, et al.: J. Am. Chem. Soc. 141, 19397(2019).136日本結晶学会誌第62巻第3号(2020)