ブックタイトル日本結晶学会誌Vol62No2
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日本結晶学会誌Vol62No2
金属元素が織り成す構造と機能性材料への展開キソメタレートは,欠損部位が金属種の安定化サイトとして機能する.欠損型の[XW 10O 36]n-や[XW 9O 34]n-などの分子鋳型に逐次的に金属種を導入することで,金属の種類,配列,配位構造に応じて磁気異方性や金属間相互作用を制御することが可能である.これら原子配列制御技術は従来の金属置換ポリオキソメタレートとは一線を画すものであり,無機化学合成を自在制御する新しい方法論と言え,優れた単イオン磁石特性,5)単分子磁石特性,6)光触媒特性7)などを示す材料の開発につながったという話を伺うことができた.ポリオキソメタレートは単結晶X線構造解析なくして,分子構造を解明することはできず,結晶学の寄与は非常に大きい.4.石川理史先生(神奈川大学)「結晶性Mo 3VO xへの骨格金属置換および異金属導入に立脚した選択酸化活性制御」:Mo-V複合酸化物はアルカン,不飽和アルデヒドをはじめとしたさまざまな選択酸化反応に高い触媒活性を示し,実用化されている.しかし,高活性工業触媒の構造は非晶質,あるいは多数の結晶相で構築され,構造と活性を結びつけることが困難である.水熱合成により得られる結晶性Mo 3VO x複合酸化物触媒はアクロレインからアクリル酸を合成する工業用触媒を凌駕する活性を示す.8,9)この複合酸化物は[Mo 6O 21]6-のユニットを有しており,その配列により,サイズの異なるチャネル構造ができる.そのうち,7個の金属原子と酸素原子からできるミクロ細孔が活性点となって反応が進行することが明らかとなった.さらに,工業触媒においては,助触媒としてCuやWの添加が効果的である事実はわかっていたが,結晶性複合酸化物触媒を用いて,導入した助触媒の構造部位と触媒機能変化を検討することにより,これら助触媒の真の添加効果を解明することに成功した.結晶性複合酸化物の構造と触媒活性を検討することで,その活性に寄与する部分構造を明確化することが可能となるという基礎化学的にも重要な話を伺うことができた.5. Hermann Gies先生(Ruhr University,東京工業大学)「Low resolution powder diffraction data and structure analysis:Where are the limits?」:材料科学において,粉末X線回折による構造解析には限界があり,機能を担う重要な部分がわからないということがしばしばある.Silica-Xと呼ばれる化合物群は,類似したX線回折パターンを示すが,構造のディスオーダーによる,シャープなピークとブロードなピークが混在するために,解析に成功していない.テトラメトキシシランと水酸化カリウムを反応させることで得られるゼオライトRUB-5はSilica-Xと類似した粉末X線回折パターンを示し,ディスオーダーと複雑な構造のため,X線構造解析はうまくいかなかった.しかし,hk0のピークがシャープであり,層状のビルディングブロックを有しているなどの構造に対するヒントは得られた.自動化電子線回折トモグラフィ(ADT)によって,RUB-5の構造日本結晶学会誌第62巻第2号(2020)を解明することに成功した.10)RUB-5は約15 Aの厚さの層状のビルディングブロックを有し,c軸方向にスタックしていた.RUB-5と同様の合成法で得られた類縁体RUB-6もSilica-X様の粉末X線回折パターンを示し,解析はうまくいかなかったが,ADT法によって,構造解析に成功した.RUB-6はRUB-5と類似した構造で,RUB-5と同様の層状ビルディングブロックを有する.これまで構造解析が十分ではなかったSilica-Xに対して,ADT法や,ほかの物理化学的測定から得られたデータを基に,構造解析に至った.シンポジウムでは,ADT法に関する質問が飛び交い,インパクトの大きな話を聞くことができた.3.終わりにシンポジウムの報告形式で講師の方々の研究を最近の研究動向として紹介させていただいた.金属元素はそれぞれ独自の大きさ,配位構造,物性を示すため,化学のあらゆる分野においてさまざまな用途で用いられる.シンポジウムでは,有機,無機の分子から高分子,連続構造まで多岐にわたる研究に触れることができた.細分化され,高度化する化学において,「金属元素が織り成す構造」というキーワードに基づいてシンポジウムを行うことで,改めて結晶学の重要性に気づく.機能に関する論文を投稿すれば,構造解析が求められる昨今,科学の根幹を担う結晶学の発展はますます重要となる.2019年年会の化学シンポジウムは,日本学術振興会研究拠点形成事業「先進エネルギー材料を指向したポリオキソメタレート科学国際研究拠点」との連携開催であった.この事業は,日本-イギリス-フランス-ドイツ-中国のポリオキソメタレートの研究者が協力しエネルギー材料への応用研究を視野に入れた基礎科学を推進するための研究拠点である.ポリオキソメタレートは,数多くの電子の授受が可能であり,強酸性を示す.これらの特徴から,エネルギー問題解決の鍵となる触媒材料や電池電極材料として重要な材料である.その精密な構造制御は新たな材料開発につながる.ポリオキソメタレートの部分構造はバルクの金属酸化物のビルディングブロックとなる例もある.最後に,シンポジウム登壇の講師の方々,共同で企画してくださった化学系プログラム委員をはじめ,年会実行委員の方々に大変お世話になりました.この場を借りてお礼申し上げます.文献1)S. Sairenji, et al.: Tetrahedron Lett. 55, 1987(2014).2)S. Akine, et al.: J. Am. Chem. Soc. 135, 12948(2013).3)S. Akine, et al.: J. Am. Chem. Soc. 133, 13868(2011).4)W. Kosaka, et al.: Nat. Commun. 9, 5420(2018).5)R. Sato, et al.: Chem. Commun. 51, 4081(2015).6)R. Sato, et al.: Chem. Eur. J. 19, 12982(2013).7)K. Suzuki, et al.: ACS Catal. 8, 10809(2018).8)S. Ishikawa and W. Ueda: Catal. Sci. Tec. 6, 617(2016).9)S. Ishikawa, et al.: Catal Today 238, 35(2014).10)B. Marler, et al.: Micro Meso Mater. 296, 109981(2020).75