ブックタイトル日本結晶学会誌Vol62No2

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概要

日本結晶学会誌Vol62No2

クリスタリット金属タンパク質の成熟化Maturation of Metalloprotein金属タンパク質の中には,複雑な金属クラスターを活性中心にもつタンパク質が自然界には存在する.複雑な金属クラスターの例として[NiFe]ヒドロゲナーゼの[NiFe(CN)2CO]センターや[FeFe]ヒドロゲナーゼの[2Fe2S(CO)3(CN)2]センター(Hクラスター),ニトロゲナーゼの[Mo7Fe9S]活性中心,アセチルCoAシンターゼの[2Ni4Fe4S]活性中心など,多種多様な活性中心が知られている.これらの金属クラスターは細胞内で自発的に作られるのではなく,特異的な補助タンパク質によって段階的に組み込まれる.これらの金属クラスターを対象となる金属タンパク質に組み込み活性化させる過程を「金属タンパク質の成熟化」と呼び,この過程にかかわる補助タンパク質は「成熟化因子」またはメタロシャペロンと呼ばれる.(東北大学多元物質科学研究所渡部聡)電子密度の負のリプルNegative Ripple of Electron Density電子密度図をフーリエ変換によって計算する際,級数打ち切りによって生じる微細なさざ波状の誤差.本来の電子密度が有意な正の領域ではさざ波の振幅が小さいために目立たないが,電子密度がきわめて低い領域では本来あり得ないはずの負の電子密度を与える場合がある.光化学系Ⅱのような金属タンパク質について1.9 A程度の分解能で構造解析を進める際,錯体を形成している金属原子の周辺に電子密度の負のリプルが残ることがある.有意な正の電子密度図に対してモデリングを行う限り問題が生じることは少ないが,特に同型差フーリエ図のように信頼度の低い電子密度図では,負の電子密度から絶対値の少し大きな負の電子密度が差し引かれた結果,あたかも正の電子密度があるように見えるゴーストピークが現れることがあり,ここに金属原子に配位した軽原子を同定する誤りを犯さないように注意する必要がある.(大阪市立大学複合先端研究機構神谷信夫)緑色蛍光タンパク質Green Fluorescent Protein(GFP)1962年に下村脩博士によって発見が報告された,Aequorea victoria(オワンクラゲ)のもつ蛍光タンパク質である.紫外光~青色光を吸収して緑色蛍光を発するが,その際に基質を必要としない.このため,融合タンパク質として発現させターゲット分子の発現や局在を調べるために分子生物学において多用される.βバレルが発色団を取り囲む樽状構造をもつことが1996年にX線結晶構造解析により解明された.アミノ酸置換により日本結晶学会誌第62巻第2号(2020)分光学的性質の異なるさまざまな変異体が作製されており,理論的研究のモデル分子としてもしばしば用いられる.(理化学研究所放射光科学研究センター高場圭章)電荷密度解析Charge Density AnalysisX線結晶解析法や量子化学計算により精密な電子密度分布を決定し,電子密度の微細な凹凸や偏りから各原子の電荷や原子間相互作用に関する情報を引き出すこと.X線結晶解析法で得られた電子密度に対しては,Atoms-in-molecules(AIM)理論に基づくトポロジー解析を適用することが主流となっている.分子軌道をもとに電荷を割り当てる手法も電荷密度解析と呼ばれるが,こちらは(Charge)Population analysisと記述される.(理化学研究所放射光科学研究センター高場圭章)NCI表面Non-Covalent Interaction Surface精密構造解析などで得られた電子密度の換算密度勾配(Reduced density gradient:RDG)の等値面のこと.なお,RDGはs(ρ)=123 2 12 43で定義され,もともと密度汎関数法(Density functional theory:DFT)で得られた電子密度の特徴を示す指標として見いだされたものである.このNCI表面をsign(λ2)ρの値で色分けすることによって,相互作用の性質や強さを分類することができる.ここで,λ2は電子密度ρのHessian第2固有値,sign(λ2)はその符号である.NCI表面として可視化することで相互作用の位置と強さを視覚的に理解することが可能となる.(理化学研究所放射光科学研究センター高場圭章)スピネル化合物Spinel Compound組成式がAB 2X 4で表されるスピネル型構造をもつ化合物を指す.スピネル化合物には酸化物系以外にも硫化物系のチオスピネルなどがよく知られている.理想的なスピネル型構造では,立方最密充填した酸素や硫黄などの陰イオンがつくる四面体の隙間の位置(Aサイト)と八面体の隙間の位置(Bサイト)を遷移金属イオンなどの陽イオンが占める.Aサイトを占める陽イオンはダイヤモンド構造と同じ原子配置を有し,Bサイトを占める陽イオンは正四面体を形成し,その頂点を共有して三次元的につながったパイロクロア格子を形成する.スピネル化合物は立方晶系の物質が多いが,A,Bサイトを軌道自由度をもつ遷移金属イオンが占める場合やBサイトを123