ブックタイトル日本結晶学会誌Vol62No2

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概要

日本結晶学会誌Vol62No2

クリスタリットCRドメインCR DomainヘモフォアHemophore病原性細菌がヘムを獲得するために細胞外に分泌される分子の総称.定義上はタンパク質に限らないが,すべてがタンパク質である.由来する生物種によってアミノ酸配列や分子サイズはさまざまである.多くのヘモフォアはヘム結合タンパク質であり,宿主からヘムを奪って自身の膜輸送体へと運ぶ.遊離のヘムは病原菌の鉄源となるだけでなく,活性酸素種を生成する.そのため,ヒトはヘモペキシンと呼ばれるヘム結合タンパク質を使って遊離のヘムを回収するが,ヘモペキシンを標的とするヘモフォアも存在する.このタイプのヘモフォアはヘムに対する親和性はなく,ヘモペキシンを捉えて,膜輸送体まで運搬する.また,似た役割をもつ分子としてシデロフォアが知られている.シデロフォアは3価の鉄イオンを獲得するために細胞外に分泌される低分子で,その多くが環状ペプチドである.(自然科学研究機構生命創成探究センター/分子科学研究所IsdシステムIsd System村木則文)黄色ブドウ球菌が宿主のヘモグロビンからヘムを獲得して細胞内で鉄源として利用するためのタンパク質群.IsdはIron-regulated surface determinantの略である.本系は宿主のヘモグロビンから直接ヘムを獲得して膜輸送体まで運ぶ複数のヘム獲得タンパク質(ヘモフォア),膜貫通型のヘム輸送体であるヘムトランスポーター,細胞内のヘム分解酵素から構成される.グラム陽性菌の代表的なヘム鉄獲得システムであり,黄色ブドウ球菌が属するフィルミクテス門の細菌に広く保存されている.(自然科学研究機構生命創成探究センター/分子科学研究所村木則文)ジフテリアの原因菌であるCorynebacterium diphtheriaeにおいて発見された新規ヘムタンパク質HtaAとHtaBに共通して含まれるドメイン.CRはConserved Regionの略である.ヘム獲得タンパク質(ヘモフォア)として働く機能ドメインとして同定されている.逆平行βシートを骨格とし,その片端にヘム結合領域をもつ.ヘムはチロシン側鎖を配位子とする5配位構造をとっている.コリネバクテリアが属する放線菌門の細菌によく保存されている.(自然科学研究機構生命創成探究センター/分子科学研究所K-B配置もしくはK-BミラーKirkpatrick and Baez Mirror村木則文)X線解析やX線顕微法のX線集光光学素子に利用される集光光学素子の1つである.K-Bミラーは,全反射現象を利用しているため集光効率が高く,色収差がほとんどないが,ミラーの形状加工,姿勢調整の点で難しいとされている.K-Bミラー配置は,光源と集光点を焦点とする楕円の形状が作り込まれた2枚の全反射ミラーで構成されている.それぞれのミラーが,垂直,水平方向集光を担っている.ミラー形状には,全ミラー領域にわたってナノメーターレベルの形状精度が要求される.(理化学研究所放射光科学研究センター平田邦生)EEMミラーElastic Emission Machining MirrorEEMは微粒子と加工物表面間の化学反応を利用した超精密加工法であり,EEMミラーはEEMにより加工されて製作された集光ミラーのことを指す.EEMは加工物材料と反応性のある微粒子を超純水の流れによって加工物の表面に供給し,表面間の化学結合が生じた後,さらに超純水の流れにより,微粒子を取り除くとき,微粒子が加工物表面の原子を原子単位でもち去ることによって加工が進む.化学的な原理に基づく加工法であり,原子レベルの平滑面を結晶学的な欠陥の導入を伴うことなく実現することができる.微粒子には,通常SiO 2などの金属酸化物が用いられ,ノズルから吐出する超純水の流れにより加工物上の特定の領域に供給される.ノズルを適当な速度で加工領域全域にわたって走査することにより,任意形状の創成が可能である.(理化学研究所放射光科学研究センター平田邦生)122日本結晶学会誌第62巻第2号(2020)