ブックタイトル日本結晶学会誌Vol62No2
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日本結晶学会誌Vol62No2
高分解能粉末回折によるスピネル化合物の構造相転移の研究のままであるが,400反射は約70 K以下でブロードになり始め,58 Kにおいて明らかに2本に分裂しており,対称性の低下を伴った構造相転移が起こっていることがわかる.400反射の半値幅の温度変化から判断して,この構造相転移はT*~90 Kで起こることがわかり,さらにLe Bail解析の結果から,T*以下でc軸が小さい正方相となることがわかった.図3cに格子定数の温度変化を示す.T*以下で温度減少とともにaとcの差が大きくなっていくが,T 2でこの差が最大となり,さらに低温ではaとcが近づいていく傾向が見られた.ここで特筆すべきことは,正方歪(格子定数aとcの差の割合,すなわち|1-c c/a c |)が最大のときでさえ0.06%と非常に小さいということである.これは,図2bに示すように,SuperHRPDの高分解能データがΔd/d=0.07%という高い分解能を有するからこそ初めて観測が可能になったと言える.次に,多結晶と同様の逐次相転移を示す単結晶を用いて放射光回折測定を行い,正方相の空間群を決定した.その結果,T*温度以下において空間群はI4 1/amdであったが,T 2温度以下では禁制反射が観測され,最終的にI4 1/aと決定した.また,フェリ磁性相における磁気構造の解析を行った結果,温度降下に伴い,T 1以下でCoとVの磁気モーメントが互いに反平行になるコリニアなフェリ磁性(collinear ferrimagnetic:C-FM),T*以下でVの磁気モーメントが少し傾く非コリニアなフェリ磁性(noncollinearferrimagnetic:NC-FM)であることがわかった.さらに,得られた原子座標から正方相について,特にT 2以下においてはVO 6八面体に反強的な軌道秩序に伴う特徴的な歪みを観測した.その詳細については次節で述べる.3.3 高分解能放射光回折によるCoV 2O 4の元素置換効果CoV 2O 4は温度降下に伴い,T*でC-FMからNC-FMに磁気構造が変化するとともに立方から正方(I4 1/amd)への構造相転移が,T 2でV 3+の反強的な軌道秩序に伴う図3Intensity (arb. units)(a) 222 (b) 400112 K81 K70 K58 KLattice constant (A)8.418.4058.447 K035 KT 2 T* T 18.3952.59 2.6 2.99 3 0 100 200Q (A -1 )Temperature (K)(c)正方相日本結晶学会誌第62巻第2号(2020)a cc c立方相a321M (10 3 emu/mol)SuperHRPDの背面バンクデータにより得られたCoV 2O 4の(a)222反射と(b)400反射の回折プロファイルと(c)格子定数および磁化の温度依存性.(Temperature dependence of powder diffractionprofiles of(a)222 and(b)400 reflections obtainedby back scattering data from SuperHRPD and(c)lattice constant and magnetization for CoV 2O 4.)ac,c cは立方格子に基づいた格子定数である.I4 1/aへの構造相転移が起こることがわかった.このような多段の相転移はCoV 2O 4固有のものであることから,特にT*,T2におけるそれぞれの相転移の起源を明らかにすることは重要である.これには元素置換がそれぞれの相転移に与える影響を調べることが有効である.しかし,先に述べたように,CoV 2O 4の正方歪が非常に小さく構造相転移の観測が困難であるだけでなく,組成を変えた複数の置換体試料に対して温度を変化させて回折データを測定しなければならない.これを可能にするのが,2.2.2で述べた高分解能かつ敏速な測定を行えるSPring-8 BL02B2に設置された一次元半導体検出器を備えた回折計である.図2bからわかるように,特にロングアーム(ゴニオメータ半径1146 mmの検出器)を用いれば,CoV 2O 4が示す0.06%というわずかな正方歪を捉えることは十分可能である.本研究で用いた試料は,BサイトのV3+をCr3+に置換した系Co(V1-xCr x)2O 4(0 ? x ? 0.25)である.BサイトのV 3+をスピンの大きさが近く軌道自由度をもたないCr 3+で置換することは軌道自由度の希釈に対応することから,V 3+の軌道自由度がもたらす効果を調べることができる.また,比較のために,AサイトのCo 2+をMn 2+に置換した系(Co 1-xMn x)Cr 2O 4(0 ? x ? 0.2)についても調べた.Cr置換系,Mn置換系のそれぞれの試料について,磁化および比熱の温度変化と,ロングアームを用いた高分解能回折測定により構造相転移の観測を行い,多連装一次元半導体検出器を用いて全回折パターンを測定し,リートベルト法による構造解析を行った.なお,リートベルト解析に用いた初期構造は,3.2で述べたとおり,T*以下でI4 1/amd,T 2以下でI4 1/aの空間群を用いた.図4にロングアームを用いて得られたCr置換系Co(V1-xCr x)2O 4の444および800反射のプロファイルを示す.図4より,いずれの組成も444反射ピークは1本のままで半値幅も変化しなかったが,800反射にはx=0.025,0.1の組成で正方相への構造相転移によるピーク分裂が観測されている.さらに,800反射の半値幅の温度変化から,x=0.025,0.1の両組成ともに立方相から図4 Co(V1-xCr x)2O 4の444および800反射プロファイルの温度変化.(Temperaturedependencesofpeakprofilesaround 444 and 800 reflections in Co(V1-xCr x)2O 4.)115