ブックタイトル日本結晶学会誌Vol62No2
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日本結晶学会誌Vol62No2
下野聖矢,石橋広記,久保田佳基,河口彰吾図2FWHM (deg.)?d/d (%)0.20.100.40.2(a)(b)Labλ= 1.5406 APF BL-4B 2λ= 1.2 ASP8BL02B20.8 AIPMYMY LALab CuKαPF BL-4B 2SP8 BL02B2 IPSP8 BL02B2 MYSP8 BL02B2 MY LASuperHRPD BSSuperHRPD BS HR00 0.2 0.4 0.6 0.8sinθ/λ(A -1 )スピネル酸化物CoV 2O 4の室温における回折プロファイルの(a)半値幅FWHMおよび(b)分解能Δd/dの散乱角依存性.(Scattering angle dependencesof(a)FWHM and(b)resolutionΔd/d)Labは実験室系,SP8はSPring-8,MYは一次元検出器,MYLAはロングアーム,BSは背面バンク,HRは背面バンクの高分解能データを表す.この結果より,sinθ/λの範囲にもよるが,SPring-8 BL02B2の回折計と一次元検出器の組み合わせ,SuperHRPDの背面バンクデータ,PF BL-4B 2の多連装計数器の回折計において,ほぼ同程度に高い分解能が得られることがわかる.また,X線回折において,いずれもdが小さくなると(sinθ/λが大きくなると)分解能が高くなっていくが,TOF中性子回折では分解能がdにほとんど依存しないことがわかる.このことから,特に,超高分解能回折データが必要な場合,dの大きな領域ではSuperHRPD背面バンクの高分解能データを,dの小さな領域ではSPring-8 BL02B2の回折計で一次元検出器(特にロングアーム)を用いることが有効であると考えられる.特に,放射光では微少量の試料かつ多数の元素置換体に対するさまざまな温度条件で迅速に計測可能であり,それらの結果と中性子回折とを組み合わせることにより,微小な構造変化の観測に威力を発揮する.次項で述べるスピネル酸化物CoV 2O 4は,最低温まで立方晶系のままであると考えられてきた物質であるが,Δd/dが0.1%を下回るような超高分解能回折測定を用いて初めて対称性の低下を伴う構造相転移を観測した例である.3.スピネル型CoV 2 O 4の高角度分解能粉末回折さらに,背面バンクの一部の領域に対するデータを抽出することにより,より高い分解能のデータを得ることが可能であり,Si単結晶において,Δd/d~0.035%を実現している.なお,90度バンクにおいても,熱中性子を用いた角度分散の粉末中性子回折データに比べて分解能が高い.この装置を用いた研究の結果については3.2で述べる.2.4分解能の比較ここでは,実際にそれぞれの測定方法により,どの程度の高分解能が得られるのかについて説明する.なお,試料の状態(粒径や歪みなど)の違いによる回折プロファイルの半値幅の違いをなくすため,測定試料はすべての装置において,室温で立方スピネル型構造をもつCoV 2O 4を用いた.図2aに,実験室系および放射光による角度分散型の測定における回折プロファイルの半値幅の散乱角依存性を示す.なお,測定手法により波長が異なるので,横軸にはsinθ/λをとっている.当然ではあるが,放射光を用いた測定において,いずれも実験室系よりも明らかに半値幅が小さく,低角側ではいずれも0.02~0.03°程度である.また,Debye-Scherrer法と一次元検出器(MYTHEN)の組み合わせが最も半値幅が小さく,低角側で0.02°を下回っており,広角側でも0.03°程度を実現しており,ロングアームを用いることによりさらに半値幅を小さくすることが可能となる.また,アナライザ結晶を用いたPF BL-4B 2の多連装検出器の回折計も高角側を除けば十分半値幅が小さい.次に,分解能Δd/dの比較を行った結果を図2bに示す.これにより,TOF中性子回折実験との比較も可能となる.3.1 CoV 2O 4の構造と物性CoV 2O 4は正スピネル型構造をもち,酸素がつくる四面体の中心位置(Aサイト:空間群Fd3mの8aサイト)をCo 2+が,八面体の中心位置(Bサイト:同空間群の16dサイト)をV 3+イオンが占める.この物質の興味深い点は,BサイトのV 3+がもつd電子がどの軌道を占有するかという自由度(軌道自由度)を有し,これが構造相転移を引き起こす起源となり得ることである.実際,CoV 2O 4の類縁物質AV 2O 4(A=Mg,Zn,Cd,Mn,Fe)は,すべて低温で対称性の低下を伴う構造相転移を示すことが知られている.まずCoV 2O 4が示す物性について説明しておく.多結晶のCoV 2O 4において,磁化・比熱の温度変化から3つの相転移,すなわち,T1=142 Kでフェリ磁性転移,T*~90 Kで磁化の温度変化にカスプ,T 2=59 Kで相転移による比熱のピークが観測されている.10)このような逐次相転移を示すにもかかわらず,CoV 2O 4が最低温まで立方晶系であると考えられていたことから,本当に構造相転移を起こさないのかという疑問をもち,高分解能回折装置を用いた測定を試みようと考えた.3.2 高分解能中性子粉末回折によるCoV 2O 4の結晶・磁気構造解析化学量論組成比のCoV 2O 4多結晶について,対称性の低下を伴う構造相転移の有無および磁気・結晶構造を決定するために,2.3で述べたSuperHRPDを用いてCoV 2O 4の高分解能中性子回折実験を行った.11)図3a,bに背面バンクの一部の領域を抽出して得られた高分解能粉末回折プロファイルの温度依存性を示す.222反射は1本のピーク114日本結晶学会誌第62巻第2号(2020)