ブックタイトル日本結晶学会誌Vol62No2
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日本結晶学会誌Vol62No2
高分解能粉末回折によるスピネル化合物の構造相転移の研究結晶としてSiではなく通常はGeを使用する.それでも十分分解能は高く,低角側において半値幅が0.02~0.03°程度を実現しており,Δd/d=0.1%程度に対応する.ここで,Δdはピークの半値全幅をdのスケールで表したものである.この装置を用いた回折データの分解能Δd/dに関する記事があるので,詳細はそちらを参照していただきたい.4)測定は平板試料の角度αを固定したまま2θスキャンを行うが,30°程度の範囲について行うだけで,広角度にわたる全回折パターンを得ることができる.この測定は非対称2θスキャンであるが,平行ビームを使用した場合,補正によりθ?2θスキャンの強度への変換が可能である.また,リートベルト解析を行うことができる程度の統計精度で良ければ,数時間もあれば全回折パターンを得ることができる.この多連装計数器のデザインは,アンジュレータ光源を利用したDebye-Scherrer光学系により,ESRFを始めとする世界の放射光施設の高分解能粉末回折計のスタンダードになった.2.2 Debye-Scherrer法を用いた高分解能放射光粉末回折2.2.1イメージングプレートを用いた測定Debye-Scherrer法を用いた粉末回折では,二次元の検出器を組み合わせることにより全回折パターンを非常に短時間で測定することが可能となる.一方で,重元素を含むような化合物に対しては,X線が試料を十分に透過しないと吸収補正が必要あるいは測定が困難になる.しかし,第3世代の放射光施設SPring-8により高エネルギーの放射光が利用できるようになり,重元素を含む試料に対してもDebye-Scherrer法による測定が可能となった.このような装置の1つとして,SPring-8のBL02B2に設置された大型Debye-Scherrerカメラが挙げられる.5)検出器として二次元の検出が可能なイメージングプレート(IP)を用いることにより,全回折パターンの測定を短時間(数分~1時間程度)で行うことができる.さらに,SPring-8からの高輝度の光源を用いることにより,実用的な分解能(低角の反射における半値幅が~0.03°,Δd/d=0.1~0.2%程度)で高い統計精度の回折データの取得が容易に行えるようになったことは特筆すべきことである.これにより,複数の試料に対して温度などの条件を変化させて統計精度の高い全回折パターンを測定することが可能となり,必ずしもX線回折を専門としない合成や物性測定を行ってきた研究者による研究も含め,非常に多くの成果につながっている.2.2.2一次元半導体検出器を用いた測定Debye-Scherrer法を用いて,検出器として一次元半導体検出器(MYTHEN検出器)を使用することにより,IPを使用するよりも高分解能の測定を行うことが可能とな6)る.SPring-8 BL02B2に設置されている(図1a)回折計では,複数のMYTHENモジュールを多連装で用いることにより広い2θ範囲の回折データを一度に得ることが日本結晶学会誌第62巻第2号(2020)図1(a)SPring-8 BL02B2に設置の多連装一次元検出器およびロングアーム検出器を備えた回折計.(b)ロングアームによって得られたLaB 6標準試料のΔd/dと半値幅の2θ依存性.((a)Powder diffractometerequipped with one-dimensional detector installed atBL02B2 at SPring-8.(b)2θdependence ofΔd/d andFWHM of LaB 6 standard powder obtained by longarmdetector.)可能であり,試料にもよるが構造解析が可能な全回折パターンを数十秒と短時間で得ることが可能である.さらに,非常に高い分解能が得られるのも特徴であり,例えばSi粉末の低角におけるピークの半値幅が0.017°と分解能の高さが窺える.さらに,IPのようにデータ読み出しの必要がなくリアルタイムにデータが得られるため,高分解能粉末回折データのin-situの測定が可能になっている.詳細については文献を参照いただきたい.6)上記と基本的に手法は同じであるが,ゴニオメータ半径を大きくすることにより,さらに分解能を高くすることができる.SPring-8 BL02B2の回折計において(図1a),ゴニオメータ半径を1,146 mm(以降,この検出器をロングアームと呼ぶ)にすることにより約0.0025°ステップでの測定が可能となり,図1bに示すように,結晶性の高いLaB 6 660C標準試料に対して低角のピークの半値幅が約0.008°(Δd/d~0.02%)を実現している.7)2.3パルス中性子を用いた高分解能粉末中性子回折かつて,中性子回折は分解能が低いと言われていたが,最近ではJ-PARC物質・生命科学実験施設MLFのBL08に設置されている粉末中性子回折計SuperHRPDを用いることにより,特に高い分解能の回折測定が可能となっている.8,9)この装置はパルス中性子を用いてTOF(time of flight)法により回折データを得るが,中性子源から約100 mにも及ぶガイドを通した中性子を利用して飛行時間の測定精度を上げることにより分解能を向上させている.この装置には2θの領域によって,背面バンク(150°? 2θ? 175°,Δd/d=0.035~0.15%),90度バンク(60°? 2θ? 120°,Δd/d=0.4~0.7%),低角バンク(10°? 2θ? 40°,Δd/d=0.7~3.0%)と呼ばれる位置敏感型検出器が設置されている.特に,背面バンクから得られる回折データの分解能は非常に高い.113