ブックタイトル日本結晶学会誌Vol62No2

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概要

日本結晶学会誌Vol62No2

日本結晶学会誌62,112-117(2020)ミニ特集精密構造解析高分解能粉末回折によるスピネル化合物の構造相転移の研究大阪府立大学大学院理学系研究科,現防衛大学校機能材料工学科下野聖矢大阪府立大学大学院理学系研究科石橋広記,久保田佳基高輝度光科学研究センター河口彰吾Seiya SHIMONO, Hiroki ISHIBASHI, Yoshiki KUBOTA and Shogo KAWAGUCHI:Structural Phase Transitions of Spinel Compounds by High-Resolution PowderDiffractionHigh-resolution powder diffractometry is a powerful method to determine the accurate crystalsystem and crystal structures. Neutron powder diffraction using TOF neutron diffractometer(SuperHRPD)in MLF at J-PARC and X-ray powder diffraction using Debye-Scherrer diffractometerwith one-dimensional MYTHEN detector at SPring-8 are introduced. We successfully observed thestructural phase transitions accompanied by small crystal distortion in spinel oxide CoV 2 O 4 andits substitution system by combination of these measurements and clarify the nature of the phasetransition of CoV 2 O 4 .1.はじめに高分解能粉末回折法は,回折ピークの位置をより正確に決定することでより正確な格子定数を得ることができ,ピークの分離をより明確にすることで各反射の積分強度をより正確に評価することができるという利点がある.なお,本稿における「高分解能」という意味は,どの程度近い面間隔をもつピークを分離できるかという分解能Δd/dが小さいということであって,いかに小さなdまでの反射を用いて構造解析を行うか,という単結晶回折で良く用いる意味ではないことを断っておく.筆者のこれまでの研究から,高分解能粉末回折の強みが構造相転移の研究においてより発揮されると考えている.特に,筆者が多く扱ってきたスピネル型化合物において,立方晶系という高い対称性をもつ物質が,温度減少に伴い格子定数が変化して対称性が低下する構造相転移を起こす場合,微細な双晶の形成が避けられず,単結晶を用いた結晶構造解析が困難となるからである.また,できるだけ正確に晶系を決定するためにも,高分解能回折測定は欠かせない.本稿では,スピネル型化合物を中心に筆者がこれまでに行ってきた高角度分解能粉末回折測定の手法と,それに関係した最近の研究成果の実例を紹介する.2.高分解能粉末回折2.1反射型を用いた高分解能放射光粉末回折2.1.1 4軸回折計を用いた測定粉末X線回折測定において,分解能を高くするためには放射光を用いた平行ビーム光学系を用いることが有効である.筆者が初めて行った高分解能回折測定は,当時PFのBL-3Aに設置されていた大型4軸回折計(現在はPF BL-6Cに設置)を用いて行った.具体的には,モノクロメータで単色化した平行ビームを平板試料に角度θで照射し,角度2θの位置にあるシンチレーションカウンタを用いてθ?2θスキャンにより回折強度を測定するものである.なお,回折されたX線をSiの平板単結晶アナライザを用いることにより,飛躍的に分解能を高くすることができ,さらにバックグラウンドも劇的に低くすることができる.1)この測定によるスピネル硫化物CuIr 2S 4の室温における粉末回折プロファイルの半値幅が2θで0.02°弱であった.この分解能を活かすことにより,従来,正方晶系と考えられていた結晶系が三斜晶系であることがわかり,特徴的な電荷秩序状態の解明につながった.2)この手法は非常に強力であるが,半値幅が小さいため,プロファイルを構成するデータ点数を十分に多く取るために,2θスキャンのステップ幅も小さくしなければならない(0.002~0.005°).そのため,強度にもよるが,全回折パターンを得るために1日以上,統計精度を上げるためには数日を要する場合もある.2.1.2多連装計数器を利用した測定反射型の平行ビーム光学系で測定時間を短縮させるために,Torayaらにより2θアームを多連装にした高分解能粉末回折計が導入された.3)これはPFのビームラインBL-4B 2に設置されている.2θ軸に25°間隔で6本のアームが備わっており,それぞれのアームの検出器の上流側に平板単結晶アナライザが取り付けられている.ただし,回折強度をできるだけ強くするために,アナライザ112日本結晶学会誌第62巻第2号(2020)