ブックタイトル日本結晶学会誌Vol62No2
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日本結晶学会誌Vol62No2
生命科学の飛躍のために一層深まるタンパク質結晶学の役割~タンパク質の超高分解能電荷密度解析密度(ρBCP)およびその二階微分(∇2ρBCP)から共有結合次数,水素結合の有無およびその解離エネルギーが算定できる.20,21)一方,CH-π相互作用のような多数の原子間での相互作用については,非共有結合性相互作用(noncovalentinteractions:NCI)表面により分析した.22)NCI表面は換算密度勾配(reduced density gradient:RDG)の等値面で定義され,sign(λ2)ρの値で色分けすることによって,相互作用の性質や強さを可視化することができる.ここでλ2はρ(x,y,z)のHesse行列の第2固有値,sign(λ2)はその符号である.なお,RDGはもともと密度汎関数法(density functional theory:DFT)で得られる電子密度の特徴を示す指標として提唱された概念であり,23)実験で得られた電子密度に対しても適用可能である.24)に基づくトポロジー解析を適用して,発色団における価電子分布を精査した.この結果,各原子の電荷や結合次数など電子構造と密接に関連する構造情報についての知見を得ることができた.例えば,上述した発色団のOη,およびイミダゾリノン環のカルボニル酸素原子(O2)は,いずれも負電荷を有していることが判明した(それぞれ-0.97,-0.84).これは先行する計算モデル25,26)と一致する結果であった.AIMトポロジー解析によって,従来型の水素結合に加えてCH…O/Nのような非従来型4.解析結果と考察4.1解析の進展ISAMを用いた精密化が終了した時点で,全水素原子の84%を可視化して構造モデルに含めることができた.可視化できなかった水素原子はGFP分子の表面付近に位置するものである.発色団についても水素原子を明確に可視化することができた(図5).従来から推定されていたとおり,もともとチロシル基だった酸素原子(Oη)には水素の電子密度がなく解離しており,水素ドナーとなる水分子の配向も水素原子の電子密度から確認することができた.ISAM精密化終了後のFo-Fcマップには,各原子の近傍に残余電子密度が確認された(図6).これらの残余電子密度は,その位置から結合電子や非共有電子対であることが強く示唆された.これらの残余電子密度を価電子として考慮したMAM精密化を行うと,残余電子密度が消失してR workおよびR free値も低下した(表S2).4.2 GFPにおけるAIMトポロジー解析の結果MAM精密化後の変形マップはISAM精密化後の残余電子密度をよく再現しており,MAM精密化によって価電子密度が解析に取り込まれたことを示している(図7a).こうして得られた精密な電子密度にAIM理論図6解析の進展による残余電子密度の変化.(Improvementon the deformation map by the analysis.)(a)MAM精密化前(ISAM精密化後)の残余電子密度を示す差フーリエ(Fo-Fc)マップを等高線表示で示した(左:発色団,右:Trp57-Pro58間のペプチド結合).青色は正の,赤色は負の残余電子密度を示す.(b)MAM精密化後の残余電子密度.編集部注:カラーの図は電子版を参照下さい.図5水素原子の可視化.(Visualization of hydrogenatoms.)2F o-Fcマップを灰色の表面として,水素原子をオミットしたF o-Fcマップをピンク色の表面として示した.編集部注:カラーの図は電子版を参照下さい.図7MAM精密化後の静的変形マップ.(Static deformationmaps after the refinement with MAM.)(a)発色団の変形マップの等高線表示.(b)発色団および周辺残基の変形マップの表面プロット表示.通常の水素結合およびCH…O/N型のBPをそれぞれ黄色およびピンク色の実線で示した.(c)Oη原子付近を横方向から見た図.(d)O 2原子を横方向から見た図.編集部注:カラーの図は電子版を参照下さい.日本結晶学会誌第62巻第2号(2020)109