ブックタイトル日本結晶学会誌Vol62No2

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概要

日本結晶学会誌Vol62No2

高場圭章,長谷川和也,竹田一旗図4タンパク質における電荷密度解析.(The flow ofthe charge density analysis of proteins.)(a)解析のフローチャート.ISAM精密化にはPHENIX 15)およびSHELXL 16)を,MAM精密化にはMoPro 17)を使用した.(b)MAMパラメーターを適用した原子をスティックモデルで表示した.化を行っておく.引き続いて,MAMを使用した精密化を行う.このとき,個々の原子の電子密度ρatomは内殻電子によるものと価電子によるものに分けて,次式のように記述される.ρatom(r)=ρcore(r)+P valκ3ρval(κr)+Σlκ’3 R l(κ’r)ΣmP lm±y lm±(θ,φ)図3高エネルギーX線で測定した回折データの質.(Qualityofthediffractiondatameasuredwiththehigh-energy X-rays.)(a)回折写真.黒線で囲まれた部分を右側に拡大した.(b)R symおよびCC 1/2の分解能依存性.イズ300×300μm 2のX線を使用し,1個の結晶から回折データセットを収集した.この条件ではX線の吸収線量は10 5 Gy程度である.これは,通常の構造解析で適用される吸収線量限界(~10 7 Gy)と比べ2桁低い値である.13)また,GFPの発色団はX線損傷を特に受けやすいことが報告されていたが,損傷が観察されるよりも低い吸収線量で測定を完了することができた.6,14)このような低吸収線量で超高分解能データ測定ができたのは,サイズの大きなビームの利用とCdTe検出器の使用によるところが大きい.さらに,Heガス気流により60 Kという極低温に結晶を冷却しながら回折データを収集した.このようにして測定した回折データからは,0.8 A分解能以上の回折反射を確認することができた(図3a).CC 1/2が~50%になる分解能までデータを使用し,0.78 A分解能のデータセットとした(図3b).データの完全性は99.2%,多重度は12.0であった.また,最外殻(0.79~0.78 A)のR sym値と<I/σ(I)>はそれぞれ188%と1.3であった(表S2).3.3電荷密度解析の流れタンパク質を対象とした電荷密度解析の流れを図4aに示す.測定した回折データに対して,まずは通常のISAMを使用した精密化を行う.この段階で,価電子が残余電子密度として明瞭に観察されるレベルにまで精密*表S2は, J-Stageの電子付録(Supplementary)をご参照下さい.式中のρcoreは球状に近似された内殻電子密度,ρvalは価電子密度の球状成分,κおよびκ’は電子雲の広がり具合を調整する因子,Rl(κ’r)およびy lm±はそれぞれスレーター型動径関数および実数型球面調和関数,P valおよびP lm±は各項の寄与を調整する係数である.1)精密化計算の際には,温度因子が低い(B ? 8 A 2)原子のみをMAM精密化の対象として選定し,座標制約を外した上で高角の回折のみで再度精密化を行う.これによって座標・温度因子から外殻電子の寄与が除かれる.その後,κ,κ’,P valおよびP lm±に対してデータベースから各アミノ酸への初期値を導入する.今回の解析では,GFPの中の発色団およびその周辺残基などの重要部分を含む39%の原子をMAM精密化の対象とすることができた(図4b).また,MAM精密化で新たに導入されたパラメーターの数は16,986個であった.価電子分布の特徴は温度因子および球状成分の影響を除いた静的変形マップ(staticdeformation map)により可視化される.3.4高精度電子密度の精査高精度の電子密度が得られると,AIM(atoms-inmolecules)理論によるトポロジー解析を適用して電子密度の凹凸を詳細に調べることで,各原子の化学状態や原子間相互作用の性質を定量的に議論することが可能となる.18,19)AIM理論では電子密度勾配ベクトル(∇ρ)の流束が0になる面として原子間の境界を決定し,各原子について電子密度の空間積分から原子電荷(AIM電荷)を計算する.結合は原子間に連なる電子密度の極大点をつないだ結合経路(bond path:BP)として検出することができる.BPに沿った電子密度の極小点は結合臨界点(bond critical point:BCP)と呼ばれる.BCPにおける電子108日本結晶学会誌第62巻第2号(2020)