ブックタイトル日本結晶学会誌Vol62No2

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概要

日本結晶学会誌Vol62No2

日本結晶学会誌62,106-111(2020)ミニ特集精密構造解析生命科学の飛躍のために一層深まるタンパク質結晶学の役割~タンパク質の超高分解能電荷密度解析理化学研究所放射光科学研究センター高場圭章高輝度光科学研究センター長谷川和也京都大学大学院理学研究科竹田一旗Kiyofumi TAKABA, Kazuya HASEGAWA and Kazuki TAKEDA: ProteinCrystallography for Progress in Life Science: Charge Density Analysis of Proteins atUltra-High ResolutionThe electron density distribution of each atom reflects chemical properties of the atom in themolecule. The charge-density analysis at ultra-high resolution can analyze details of the electronicdistribution even in protein molecules. In this paper, we introduce a recent our result for the chargedensity analysis of green fluorescent protein (GFP) at an ultra-high resolution of 0.78 A. The preciseelectron density distribution gives information about CH-πand lone pair-πinteractions and CH…O/Ntype non-conventional hydrogen bonds as well as conventional hydrogen bonds. The informationabout such weak but substantial interactions between the chromophore and the protein environmentexplains the properties of GFP.1.はじめにタンパク質も含めてあらゆる分子における電子の分布は,それぞれの構成原子の化学的状態によって特徴づけられる.このため,X線結晶解析法で各原子における電子分布を精密に決定することができれば,価電子や原子間相互作用,原子電荷などの化学的状態に関連した情報を引き出すことが可能である.このような高精度のX線解析は電荷密度解析と呼ばれる.ところで,一般的なX線解析においては,電子が原子核のまわりに球対称に分布しているという近似の下で導出された孤立球状原子モデル(independent spherical atomic model:ISAM)が使用されている.しかしながら,実際の原子における電子の分布にはローンペアや共有結合の形成に由来する異方性がみられる.多極子原子モデル(multipolar atomicmodel:MAM)はこのような異方性のある電子分布を精密に解析する方法の1つである.1)タンパク質については,2000年ごろから分子量が比較的小さなサソリ毒素やクランビンについてMAMが適用されはじめた.2,3)しかしながら,その後は数例が報告されたにすぎない.われわれの研究グループにおいても2006年ごろからタンパク質の電荷密度解析に向けた研究を開始し,最近になっていくつかのタンパク質について報告することができた.4,5)本稿では,緑色蛍光タンパク質(GFP)についての最近の成果を紹介し,6)現在の課題と今後の展望を述べる.2.GFPについてGFPは,クラゲの一種Aequorea victoria(オワンクラゲ)がもつ蛍光タンパク質であり,紫外光~青色光を吸収して緑色光を発する.7)GFPは11本のβ-シートが発色団を取り囲み,樽のような構造をしている(図1a).8,9)発色団はポリペプチド鎖中の3つの残基(Ser65,Tyr66およびGly67)から翻訳後の反応によって形成される.この発色団は水素結合やファンデルワールス力により周辺残基と相互作用している.GFP中の発色団のチロシル基では,A型とB型の2種類のプロトン化状態が熱平衡状態にあ図1 GFPの構造.(Structure of GFP.)(a)本研究で使用した変異体(F99S/M153T/V163A/E222Q)のリボン図.分子の内部にある発色団,相互作用している残基および水分子をスティックモデルで表示した.また,従来型の水素結合を点線で表示した.(b)野生型および変異体の吸収および蛍光スペクトル.106日本結晶学会誌第62巻第2号(2020)