ブックタイトル日本結晶学会誌Vol62No2
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日本結晶学会誌Vol62No2
生命科学の飛躍のために一層深まるタンパク質結晶学の役割~X線結晶構造解析と構造生物化学図50.03 MGyの構造における2つのOECの重ね合わせ.19)(Superposition of two OECs in the 0.03 MGystructure.)2個のOECをハイライトとフェードで区別した.図4低X線照射量で決定されたPSIIのOECの構造.19)(Structures of the oxygen-evolving complex inphotosystem II determined at low X-ray doses.)(a)0.03 MGyのOEC構造と1σレベルの電子密度のステレオ図,(b)0.03 MGy(ハイライト)と0.12 MGy(フェード)の構造における1個目のモノマーのOECの重ね合わせ,(c)2個目のモノマーのOECの重ね合わせ.構成するホモダイマーの2個のOECが高い相同性を示すと仮定して,2つの制限構造をさらに平均して用いた.これは,最終的に計算されたDPI値が0.11 Aで,これから結合距離の誤差を求めると0.16 Aとやや長めと思われ,2個のOEC構造を平均すれば結合距離の標準偏差を小さく抑えることができると考えたためであった.しかしながらこの平均化した制限構造を用いる戦略は,後述するように,回折強度データを収集する際のX線照射量19を軽減させる研究)を進めた結果,ホモダイマーでありながら2つのモノマーのOECの構造が同一ではないことがわかり,これらを同一と仮定した点において不適当であったことが判明した.上記の研究で1.9 A分解能の回折強度データを測定するために用いた結晶はただ1個であり,結晶の長軸1.2 mmの方向に結晶をスライドさせながら測定してもX線照射量は0.43 MGyに留まった.X線照射量を軽減する研究は,0.43 MGyではOECの12%についてMn原子が2価まで還元されているという指摘に対応するために計画された.結晶化とその後の脱水処理の条件を再検討して同型性の高い多数の結晶を準備できるようにしたうえで,0.03 MGyと0.12 MGyのX線照射量で回折強度を測定し,それぞれ1.87 A分解能と1.85 A分解能の構造解析を進めた.19)図4aは,0.03 MGyのOEC構造に1σレ日本結晶学会誌第62巻第2号(2020)ベルの電子密度を重ねたステレオ図である.先の1.9 A分解能の場合と比べると,分解能はほとんど改善されていないが,X線照射に伴う電子密度図の劣化が少なく,特にOECのオキソ酸素に対応する電子密度分布がよりはっきりと現れている.この研究のトピックスは,図4bとcに見られるように,2個のモノマーのOEC構造が0.03 MGyと0.12 MGyの間ではほとんど区別できないほど似ているのに対して,0.03 MGy,0.12 MGyのいずれにおいても,それぞれの2つのOEC構造には違いが見られることであった(図5参照).これからは以下の2つの重要な論点が浮かび上がる.まず第1に,X線損傷に伴うOEC構造の変化には0.12 MGy前後にしきい値がある.すなわち,X線照射量をこれより小さく抑えれば,1.9 A程度の分解能の構造情報にX線損傷の効果はほとんど見られないと考えられ,PSIIのその後の結晶構造解析に明確な指針を提供することとなった.また第2に,DPIに基づく結合距離の誤差(0.03 MGyで0.17 A,0.12 MGyで0.16 A)の見積もりはOECの構造については過大評価の可能性がある.DPIからの見積もりは誤差の上限と考えるべきであり,別に誤差の下限を見積もることができれば,より確かな誤差の値が得られるかもしれない.そこでわれわれはPSIIモノマーのほぼ中心にあり,OECばかりでなく,OECが水から引き抜いた電子を運ぶ電子伝達系(反応中心のクロロフィルダイマーとそれに隣接するクロロフィル,フェオフィチン,プラストキノンからなる)を安定に支えているD1,D2のコアサブユニット(電子付録の図S-4参照)に注目した.これら2つのサブユニットはPSIIの中で最も安定なものと考えることができる.図4と図5に示したOEC構造の重ね合わせは,D1とD2のCα炭素を最小2乗法で重ね合わせた103