ブックタイトル日本結晶学会誌Vol62No2

ページ
31/68

このページは 日本結晶学会誌Vol62No2 の電子ブックに掲載されている31ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

概要

日本結晶学会誌Vol62No2

[NiFe]ヒドロゲナーゼ成熟化の構造生物学図8[NiFe]クラスター組み込みに伴う大サブユニットHyhLの構造変化.(Conformational changes of the large subunitofupon[NiFe]clusterincorporation.)(A)未成熟型(HyhL)の全体構造,(B)成熟型(FrhA)の全体構造,(C)活性中心の構造比較,(D)[NiFe]組み込みに伴うN末領域とC末領域の配置転換のモデル.C末端の切断領域(赤)は,未成熟型ではβストランドの一部となり保護されている.[NiFe]クラスターが組込まれると,切断領域は溶媒に露出し,速やかにエンドペプチダーゼによって切断され,最終構造へと成熟化される.編集部注:カラーの図は電子版を参照下さい.と相互作用してβストランド(β11)を形成している.その結果,[NiFe]クラスター配位にかかわる4つのシステイン残基は,うち3つが未成熟型でも同様な位置にあったが,β11ストランド上にある4番目のシステイン残基(Cys421)はかなり離れたところに位置していた(図8C).すなわち,[NiFe]クラスターの組み込みに伴ってβ11ストランドが外側に引き出されることが示唆される.このN末とC末領域の空間的な違いは,未成熟型をエンドペプチダーゼから保護する役割も担っていることを示唆する.成熟化の最終段階では,大サブユニットのC末端領域がヒドロゲナーゼ特異的エンドペプチダーゼによって切断され,成熟型への構造変化を誘導する.32)ヒドロゲナーゼ特異的エンドペプチダーゼの立体構造は,これまでに大腸菌の[NiFe]ヒドロゲナーゼ2に特異的なエンドペプチダーゼHybD,33)大腸菌の[NiFe]ヒドロゲナーゼ1と3に特異的なHycI,34)およびT. kodakarensis由来HybD 35)およびHycI 36)が報告されている.興味深いことに,これらのエンドペプチダーゼは,未成熟型には作用せず,成熟型しか切断できないことが報告されており,どのように成熟型と未成熟型を区別しているかは不明であった.構造解析の結果,未成熟型HyhLのエンドペプチダーゼの認識配列はβ11ストランド上に位置しており,立体障害によってHybDから保護していることが示唆された.日本結晶学会誌第62巻第2号(2020)以上の結果から,次のような成熟化モデルを提唱した(図8D).未成熟型大サブユニットのC末領域はβシート構造をとり,エンドペプチダーゼから保護されている.またN末領域は,外に伸びた構造をとることで,[NiFe]クラスターが組み込まれる前に,小サブユニットと会合することを防ぐ役割を担っていることも示唆される.大サブユニットのN末領域を介して,HypAおよびHypCと相互作用し,NiおよびFe(CN)2CO基が組み込まれる.[NiFe]クラスターの組み込みに伴って,Cys421が[NiFe]クラスターの配位にかかわってβ11ストランドが外側に引き出される.溶媒に露出したC末領域は,エンドペプチダーゼによって切断修飾を受け,短いαヘリックスを形成して[NiFe]クラスターを格納する.最後にN末領域はβ2と相互作用してβシートを形成し,大サブユニットの成熟化は完了する.3.おわりに本稿では,[NiFe]ヒドロゲナーゼの成熟化機構に関するこれまでの知見を解説した.37)[FeFe]ヒドロゲナーゼやほかの金属タンパク質においても,個々の成熟化因子や成熟化因子どうしの複合体の構造機能解析を通して,成熟化の詳細な分子機構の解明が飛躍的に進んでいる.しかし,成熟化因子がどのように金属イオンを組み込むかという成熟化因子の最も基本的な作動原理について97