ブックタイトル日本結晶学会誌Vol62No2
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日本結晶学会誌Vol62No2
渡部聡,三木邦夫構造変化し,相互作用部位2および3を形成する.この構造変化に伴い,保存されているHis98がN末端のMHEモチーフに接近し,Ni結合サイトを形成することがわかった(図6D).等温滴定カロリメトリーの解析の結果,HypBとの複合体形成によってNi 2+イオンに対する親和性が約600倍上昇することが明らかになった.すなわち,HypBは複合体を形成することによって,HypAのNi 2+イオンに対する親和性を上昇させる働きを担っている.2.5 HypAによるヒドロゲナーゼへのNi組み込み機構HypAおよびHypCによって,NiFe(CN)2CO基が未成熟型ヒドロゲナーゼ大サブユニットに組み込まれるが,大サブユニットとHypタンパク質群との相互作用については,これまで詳細な解析が行われていなかった.筆者らは,T. kodakarensis由来[NiFe]ヒドロゲナーゼの大サブユニットであるHyhLに着目して生化学的解析に取り組んだ.30)精製した未成熟型HyhLは,溶液中で二量体と単量体の平衡状態で存在することがわかった.HyhLとHypAおよびHypCタンパク質との相互作用解析の結果,HyhLは単量体に解離し,HypAと1:1の複合体を形成することがわかった.一方,HypCとの相互作用も見られたものの,HypAとの相互作用よりは弱いものであり,Fe(CN)2CO基が必要であることが示唆された.未成熟型HyhLとHypAとが強固な複合体を形成することを利用して,HyhL-HypA複合体の結晶化を行った.31)複合体の調製に際しては,HyhL二量体の解離速度が非常に遅いことが均一な複合体調製を困難にさせた.熱処理を行うことによってHyhL二量体は解離しやすくなり,その結果均一な複合体を調製できたが,加熱調製の試料では結晶は得られなかった.最終的には20℃で約1週間インキュベートした複合体試料を用いることで結晶化に成功し,3.3~3.45 A分解能での結晶構造を決定した(図7A).31)構造解析の結果,未成熟HyhL-HypA複合体形成は,主に2つの相互作用部位で形成されていることがわかった.HyhLのN末約20残基は外に突き出た位置にあり,HypAのNi結合ドメインと相互作用して新たにβシートを形成している(図7B).HyhLのN末端10残基を欠損させた変異体では,HypAとの相互作用が失われており,このβシート形成はHypAとの複合体形成に必須である.もう1つの相互作用部位は,HypAのNi結合ドメインの2本のヘリックスとHyhL間で形成されており,主に疎水性相互作用によって形成されている(図7C).その結果,HypAのNi結合サイト(His2とGlu3)は,HyhLの[NiFe]活性中心の配位にかかわる3つのシステイン近傍に位置しており,Ni 2+イオンはHypAのNi結合部位から直接HyhLに受け渡されることが示唆された(図7D).未成熟型HyhLと成熟型大サブユニットの構造を比べると,N末端とC末端領域の空間配置が大きく異なっている(図8A,B).成熟型大サブユニットのN末20残基はβ2ストランドとβシートを形成しており,また,C末領域は短いαヘリックスを形成して[NiFe]センターを覆うように位置している.一方,未成熟型のN末端領域は外側に伸びた位置にあり,代わりにC末領域が成熟型のN末領域と同じところに位置しており,β2ストランド図7HypA-[NiFe]ヒドロゲナーゼ大サブユニットHyhL複合体の結晶構造解析.(Crystal structures of the HypA-HyhLcomplex.)(A)T. kodakarensis由来HypA-HyhL複合体の結晶構造,35)(B)HypA-HyhL間の相互作用部位1,(C)HypA-HyhL間の相互作用部位2,(D)Ni結合サイトの近接.96日本結晶学会誌第62巻第2号(2020)